ホーム

富山大学附属病院の先端医療

Q:手術支援ロボットを用いた人工膝関節置換術

富山大学附属病院の先端医療

整形外科

Q:手術支援ロボットを用いた人工膝関節置換術

下条竜一/診療教授

Q:膝の痛みの原因で多い疾患は?

A:膝関節は体を支える大事な関節ですので、歩いたり階段を上ったり下りたりする時など、常に大きな負担がかかっています。一歩一歩足を出すたびに膝にかかる負担は体重の3〜5倍と言われており、多くの方が膝の痛みにお悩みです。膝の痛みの原因にはいろいろありますが、中高年の方で最も多いのは変形性膝関節症です。太ももとすねの骨の間で、体重がかかった時にクッションの役割を果たしている軟骨や半月板が、年齢とともに徐々にすり減って膝関節の変形が起こってきます(写真1左)。最初は、朝方のこわばりや立ち上がる時などの軽い痛みから始まりますが、やがて歩くのもままならないなど、日常生活に支障をきたすほどの強い痛みにまで症状が進行することがあります。

Q:どのような治療法がありますか?

A:まずは膝関節周りの筋力強化やストレッチなどの体操、肥満傾向があれば体に合わせた体重の管理に取り組みます。また、痛み止めの薬、関節内注射、膝関節を安定させる装具の装着などの治療を行います。しかし、治療を続けても痛みが軽減せず、日常生活に支障が生じている方に対しては手術が選択肢になります。手術方法にはいくつかありますが、膝の状態や患者さんの生活様式に応じて検討されます。一般的に、変形が軽い場合は関節鏡を使った手術、変形が中くらいで一部に限局している場合は変形を矯正する骨切り術、また、すでに軟骨が著しく摩耗し膝全体に変形が進行している方に対しては人工膝関節置換術(写真1右)が選択されます。

Q:人工膝関節置換術とはどんな手術ですか?

A:人工膝関節置換術は、変形している骨を切って、靭帯のバランスを整えて膝をまっすぐにし、傷んでいる関節内の一部もしくは全体を、金属とポリエチレンでできた人工関節(写真2)に置き換える手術です。痛みを和らげることで、術後はスムーズに膝の曲げ伸ばしや歩くことができるようになり、正座や飛び跳ねるといった過度に負担がかかるものでなければ、ほとんどの日常生活動作も可能となります。また、庭の手入れや畑仕事、パークゴルフといったスポーツもできるようになるなど、QOL(生活の質)の向上が期待できます。人工膝関節置換術は整形外科では一般的に行われている手術ですが、より良い関節にするためには、靭帯バランス調整や骨切りを高い精度で行う必要があります。この手術精度は医師の熟練度によるところが大きいのですが、慣れた医師でも誤差が生じることがあります。そこで近年、手術をより正確に行うために、人工膝関節置換術を支援するロボットが欧米を中心に普及してきました。

Q:手術支援ロボットとは?

A:人工膝関節手術支援ロボットは、目の役割をする赤外線カメラと、手の役割をするロボットアームで出来ています。手術中にロボットは、赤外線カメラで骨の位置と形状を正確に把握します。ちょうど車のカーナビと同じ仕組みです。術者は、手術前に計画した骨切り量や角度と、手術中にリアルタイムで表示される解析値をもとに0.5mm、0.5°単位で微調整して骨切り位置を決定します(写真3)。ロボットはこの計画に基づいて、ロボットアームに取り付けた骨切りガイドを自動的に膝関節内に配置し、術者の骨切りを支援します(写真4)。富山大学附属病院では、米国製の人工膝関節手術支援ロボット(ROSA)を、全国の国公立大学病院に先駆けて2021年3月に導入しました。実際にこのロボットを使用して行った手術での精度は高く、誤差は平均1mm、1°未満で、かつ安全に手術が出来ています。誤差が大きいと、短期的には膝のぐらつきや曲げづらさが、長期的には人工関節の傷みや弛み(ゆるみ)が発生してしまうことがあるので、骨切り精度を向上する手術支援ロボットの使用は大変有意義です。人工膝関節置換術を受けられる患者さんがいつまでも膝の痛みがなく快適な生活ができるように、当院では、支援ロボットを用いた精度の高い手術を行っています。

一言メモ

多くの方が膝の痛みで悩んでおられると思います。膝が痛いと、歩くのもままならないなど日常生活に支障をきたすだけでなく、気持ちまで暗くなってしまいがちです。痛みが続いている場合は、一度整形外科を受診することをお勧めします。痛みの原因を明らかにしてご自身に合った治療を進め、いつまでも明るく活動的に暮らせる生活を目指しましょう。

写真1:手術前(左)後(右)のX線。軟骨が摩耗し膝関節の隙間が無くなっています(矢印)。

写真1:手術前(左)後(右)のX線。軟骨が摩耗し膝関節の隙間が無くなっています(矢印)。

写真2:金属とポリエチレンでできた人工膝関節。

写真2:金属とポリエチレンでできた人工膝関節。

写真3:ロボットの操作画面。

写真3:ロボットの操作画面。骨切り位置(左)や靭帯バランス(右)が表示されます。

写真4:手術の様子。ロボットが術者の骨切りを支援します。

写真4:手術の様子。ロボットが術者の骨切りを支援します。

0〜9

A〜Z

あ行

か行

さ行

た行

な行

は行

ま行

や行

ら行

わ行