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富山大学附属病院の先端医療

Q:低侵襲な誤嚥を完全に防止する手術―喉頭中央部切除術

富山大学附属病院の先端医療

耳鼻咽喉科

Q:低侵襲な誤嚥を完全に防止する手術―喉頭中央部切除術

阿部秀晴/診療講師

Q:どうして誤嚥が起こるのですか?手術はどのような方が対象ですか?

A:通常の人体の構造は、空気が鼻と口から出入りし、飲食物は主に口より体内に入ります。食べ物と空気は、声帯がある喉頭と呼ばれる部分で分別されて、空気は気管へ、飲食物は食道へ分別されます(図1)。この分別の動作が、嚥下という複雑かつ高速の協調運動で行われます。何らかの原因でこの運動がうまくいかないと、飲食物が気管に間違って入ってしまう誤嚥が起こります。誤嚥は肺炎の原因になります。

空気の通り道と、飲食物の通り道を完全に分離する、誤嚥を完全に防止する手術(図2)は、脳梗塞や脳出血の後遺症の嚥下障害や、神経筋疾患による嚥下障害、がん治療後の嚥下障害などで、誤嚥性肺炎を繰り返している方や、気管切開後で頻回の吸痰が必要な方が対象になります。

この手術はリハビリや、食事内容、食べ方の工夫等でも改善が見込まれない場合や、リハビリや訓練そのものが難しい方について、経口摂取を再開したい、誤嚥性肺炎を予防したい、在宅で介護を担当する家族の吸痰の負担を減らしたい等の要望に応えるために、音声を犠牲にしてでも誤嚥や窒息を防止するための最終手段として行います。

当院では、より低侵襲で合併症が少ない喉頭中央部分切除術を行っています。

Q:どのような手術ですか?

A:「のどぼとけ」の周辺の甲状軟骨と輪状軟骨、声帯を切除して、しっかりと縫い合わせて、飲食物の通り道を、完全に食道だけにつながるようにします。気管の切り口は、前頸部に永久気管孔として開存するように縫い付け、空気の出入口にします。これにより空気の通り道と、唾液を含めた飲食物の通り道は完全に分離されます。

従来の喉頭をすべて取る喉頭摘出術と比べると、切除範囲が狭く、切除によってできる穴は3〜5cm程と小さいことや、喉頭内の厚い組織を縫い代として使用できる特徴があり、手術後の縫合不全や出血等の合併症は、殆どありません。手術時間は2時間程度で、通常は全身麻酔で行います。

Q:術後どのような利点がありますか?問題点はありますか?

A:術後は、気道と食道が完全に分離されるので、誤嚥をしなくなります。口と咽頭の機能がある程度残存している方で、飲食物を認識できる場合は、誤嚥の恐れがなく、安心して経口摂取の訓練を開始することが出来ます。また、経口摂取が出来ない場合であっても、誤嚥性肺炎を繰り返さなくなる、頻回だった吸痰回数を減らすことが出来るなどの利点があります。

一番の問題点は、音声を不可逆的に失うことです。手術を受ける上での大きな代償であり、手術の前に嚥下障害の程度と、リハビリや訓練による改善の可能性を十分に見極めた上で、しっかりと相談したうえで実際に手術を行う必要があります。

その他に、鼻呼吸ができないため嗅覚が鈍くなることや、嚥下する際に口や咽頭の空気を丸のみする呑気症が起こることが問題点にあります。

これらの問題点と引き換えにしても、重症の嚥下障害の患者さんにとって、誤嚥のリスクがなくなることや、経口摂取を安全に再開できることが、患者さんの生活の質(QOL)を改善するのも事実です。ぜひ嚥下障害や誤嚥でお困りの方は、耳鼻咽喉科専門医にご相談下さい。

一言メモ

重症の嚥下障害にお困りで、①声を犠牲にしてでも自分の口から食事を続けたい方、②唾が呑み込めず、誤嚥性肺炎の危険の高い方、③気管切開後で頻回の吸痰が必要な方で、在宅での生活を長く続けたい方は、低侵襲な誤嚥防止手術という選択もございます。ぜひ専門医にご相談下さい。

図1:空気と飲食物の通り道

図1:空気と飲食物の通り道

図2:誤嚥防止手術後の状態

図2:誤嚥防止手術後の状態

0〜9

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