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富山大学附属病院の先端医療

Q:リンパ浮腫の治療―リンパ浮腫

富山大学附属病院の先端医療

形成再建外科・美容外科

Q:リンパ浮腫の治療―リンパ浮腫

小野田聡/特命助教

Q:リンパ浮腫とはどんな病気ですか?

A:乳がん切除に伴う腋窩のリンパ節廓清術、婦人科がん(子宮がんや卵巣がんなど)切除に伴う骨盤内のリンパ節廓清後に生じる上下肢のリンパ浮腫では、上肢や下肢の先端の部分から、心臓の隣にある胸管に至るまでのリンパの流れが、途中が狭窄や閉塞しています。リンパ浮腫の発症初期は、リンパ管内にリンパ液が貯留し、患肢の違和感やだるさなどの症状がみられます。

その後、症状が進行するにつれて、リンパ管内より周辺の皮下組織や筋肉内にリンパ液が漏出し、漏出したリンパ液は局所で炎症を引き起こし、脂肪組織の沈着を引き起こすことで、患肢の容量増加、周径増大、体重増加などの症状が徐々に進行していきます。症状の進行速度は、それぞれの患者さんによって個人差が大きいのがリンパ浮腫の特徴です。これとは異なり、まれにはっきりとした誘因が無いのに発症するリンパ浮腫(原発性リンパ浮腫)もあります。

Q:リンパ浮腫の治療にはどのような方法がありますか?

A:リンパ浮腫の治療は、大きく分けて外科的治療と、非外科的な複合的理学療法に分けられます。複合的理学療法には、治療用の弾性ストッキングや、バンテージ包帯を用いた圧迫治療に加え、リンパ流を促進するリンパドレナージ術、スキンケアなどがあります。

一方、リンパ浮腫に対する手術は、正常のリンパ経路を回復するための手術ではなく、新しいリンパ経路を再建するための手術を行います(リンパ経路再建術)。具体的には、腋窩や腹部の閉塞部分より末梢の部分で、皮下脂肪内にあるリンパ管と細静脈を吻合し(図1)、リンパ管内で停滞しているリンパ液を静脈の方向に排出する術式(図2)で、その名の通りリンパ管細静脈吻合術(LVA)といいます。文章にすると簡単なように感じますが、実際の手術では吻合を行うリンパ管や静脈が、1mm以下と非常に細いため、手術用の顕微鏡を用いて、高倍率に拡大して行います。この為、スーパーマイクロサージャリーの技術を習得している形成外科医によってのみ施行可能な術式です。

Q:リンパ管細静脈吻合術(LVA)について詳しく教えてください。

A:リンパ管細静脈吻合術(LVA)の特徴としては、非常に細い血管やリンパ管を対象とするため、皮膚の切開による傷は数cm程度であり、患者さんの負担が少ない術式であることが挙げられます。このため、LVAに関しては、多くの場合70代、80代の患者さんでも問題なく行うことができます。

一方、手術の効果に関しては、個人差が大きいのもこの手術の特徴です。治療効果の差異の原因に関しては、リンパ系発達の個人差や、放射線・化学療法の影響など、色々な要素が複合していると推測されていますが、その中で最も重要な要素としてリンパ浮腫の進行度が挙げられます。

リンパ浮腫が進行すると、リンパ管に硬化や繊維化などの変化が生じ、手術の効果が得られにくくなってしまうと言われています。また、浮腫の進行によるリンパ管の変性は不可逆性であり、このような変化が生じる前に手術を行うのが望ましく、早期の浮腫の患者さんほど良い手術適応であると考えられます。

Q:当院でのリンパ浮腫治療(外科的治療と保存的治療の複合療法)

A:当院では、リンパ浮腫の外科的治療に関しては形成外科医が担当し、保存的治療に関しては総合がんセンター看護師長の倉田が主に担当し、緊密に連携を取りながらチーム治療を行っています。特に、外科的治療に関しては、これまでに500か所以上のリンパ管静脈吻合術を行ってきた私が担当します。当院では、手術の際に必要な蛍光リンパ管造影装置を導入し、2〜3時間で5か所程度の吻合を行う手術(Multiple LVA)を行っています。現在も毎月手術を行っており、ほとんどの患者さんは手術による治療効果を実感されています。

また、ステージⅡ期晩期、ステージⅢ期等の浮腫症状の進行した患者さんに対しては、患肢に貯留したリンパ液を圧迫治療によって排出する集中排液や、リンパ浮腫の複合的理学療法のセルフケアの知識や、技術習得の為の教育入院を目的として、当院の関連施設の富山西総合病院と連携して治療を行っております。

一言メモ

北信越地方は、日本リンパ浮腫治療学会の地方組織が唯一存在しない地域であり、リンパ浮腫の治療可能な医師や、医療機関がほとんどなく、多くのリンパ浮腫患者さんが治療を受けることが出来ていない状態です。今後、当院を北信越地方のリンパ浮腫治療の拠点として発展させていきたいと思っております。

図1:リンパ管静脈吻合の概略図

図1:リンパ管静脈吻合の概略図

図2:リンパ管と静脈の吻合後、静脈内に透明なリンパ液が流入し静脈の壁が透見している。

図2:リンパ管と静脈の吻合後、静脈内に透明なリンパ液が流入し静脈の壁が透見している。

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