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富山大学附属病院の先端医療

Q:富山大学で開発した改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術―涙道閉塞

富山大学附属病院の先端医療

耳鼻咽喉科 頭頸部外科

Q:富山大学で開発した改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術―涙道閉塞

舘野宏彦/診療講師

Q:鼻涙管閉塞症とは?

A:涙は涙腺で常に作られていて、目を潤したり、洗浄したり、栄養を供給したりしていますが、よほど大泣きをしない限りは、目からあふれて出てくることはありません。それは、涙道という配水管があり、余った涙は鼻内へと排出されているからです。だから、大泣きをするとたくさんの涙が鼻へと流れてきて、鼻がグズグズしてくるわけです。涙道は涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管で構成されています(図1)。この中の鼻涙管が詰まってしまった病気が、鼻涙管閉塞症です。鼻涙管がふさがると、涙が流れなくなって眼にあふれてきてしまうので、常に涙目となってしまいます。また、鼻涙管の上流の涙嚢に、涙がうっ滞するため、そこが細菌感染をおこして涙嚢炎となり、目脂(目ヤニ)が大量に出たり、目元が腫れてきたりしてしまいます。このように、鼻涙管閉塞症は大変つらい病気であり、生活の質が著しく低下する病気です。鼻涙管閉塞症の原因は、先天性や外傷、腫瘍、医原性等がありますが、多くは原因不明です。高齢者に多く見られることから、加齢によるものが最も考えられています。

Q:涙嚢鼻腔吻合術とは?

A:鼻涙管閉塞症では、鼻涙管が詰まっている軽症か、完全に塞がっている重症かで治療法が異なります。当院では、軽症か重症かを区別するために、涙道造影CT検査という検査を行っています。この検査では、涙点から注入した造影剤が、涙道内のどこでどのように溜まるかで、鼻涙管閉塞症の重症度を判定しています(図2)。軽症と診断された場合には、涙道ブジーや涙道内視鏡などと呼ばれる医療機器を用いて、その先端を涙点から涙道内に入れ、閉塞している部位まで進めます。そして、その先端で鼻涙管の閉塞部位を穿破して再開通させます。再開通しても鼻涙管は再び狭くなるため、涙管チューブという特殊なチューブを一定期間涙道に入れて、再び詰まってしまうのを防ぎます。この治療では、運悪く再発する場合があります。このような再発例を含んだ重症例では、涙嚢鼻腔吻合術が行われます。この手術では、塞がっている鼻涙管よりも上流にある涙嚢に、鼻の中と交通させるための穴を作成します(図3)。涙嚢鼻腔吻合術には、大きく分けて、目元の皮膚を切って行う鼻外法と、鼻の穴から内視鏡を挿入して行う鼻内法があります。

Q:富山大学で開発した、改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術とは?

A:涙嚢鼻腔吻合術は、これまで眼科にて行われる鼻外法と呼ばれる、顔に傷をつける方法が主流でした。その理由は、鼻涙管閉塞症が眼の病気であり、狭い鼻内は眼科医にとっては不慣れで、手術操作が困難であったためです。一方、耳鼻科では、近年、内視鏡下鼻副鼻腔手術とよばれる新しい手術方法が普及し、狭い鼻内を拡大して観察しながら、蓄膿症などの手術が一般的に行われるようになってきました。当科では、この鼻の内視鏡手術を眼科と共同して涙嚢鼻腔吻合術に応用することで、新しい内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術を開発しました。内視鏡を用いた鼻内からの涙嚢鼻腔吻合術では、大きな利点が2つあります。まず、涙嚢と鼻腔の交通はすべて鼻内で行われるため、従来の鼻外法とは異なり、顔に傷をつくることはありません。次に、内視鏡下に鼻腔粘膜を鼻内から切開・開放した涙嚢壁と縫合することを可能にする技術を開発したことで、手術した全例で、涙目などの鼻涙管閉塞症の症状が改善し、手術を受けられた患者さんすべてに喜ばれています。術後3か月目に撮影した鼻内写真でも、涙嚢が鼻腔に大きく開いていることが観察されます(図4)。2012年に新しい手術法を開発してから9年が経過しましたが、これまでの鼻内法でみられた再発例は1例も経験していません。

一言メモ

  1. 涙目や目脂(目ヤニ)でお困りの方は、鼻涙管閉塞症の可能性があります。まずは、お近くの医療機関(眼科)を受診してください。
  2. 当院で開発した新しい改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術は、顔に傷がつかなくて成功率の高い手術です。
図1:涙道と涙の流れ

図1:涙道と涙の流れ

図3:鼻涙管閉塞症と涙嚢鼻腔吻合術

図3:鼻涙管閉塞症と涙嚢鼻腔吻合術

図2:右鼻涙管閉塞症の涙道造影CT検査

図2:右鼻涙管閉塞症の涙道造影CT検査

涙道にCTで白く光る造影剤を入れて検査をしたところです。
右は鼻涙管で閉塞して造影剤が貯留しています(赤色矢印)。涙嚢炎を起こして涙嚢が腫れているのがわかります(黄色矢印)。
左は正常で、造影剤はすぐ流れて鼻に出ていってしまうため、涙嚢がうっすらと造影されるのみです(水色矢印)。

図4:富山大学で開発した新しい改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術

図4:富山大学で開発した新しい改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術
1.涙嚢壁と鼻粘膜を内視鏡下に縫合しているところです。
2.まわりを縫合して大きく広がった吻合孔です。
3.術後の内視鏡写真です。大きな吻合孔が維持されています。

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