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富山大学附属病院の先端医療

Q:機能温存を重視した口腔がん治療―口腔がん

富山大学附属病院の先端医療

歯科口腔外科

Q:機能温存を重視した口腔がん治療―口腔がん

今上修一/助教

Q:口の中のがん(口腔がん)とは?

A:口の中を専門的な用語で口腔と呼び、口腔にある舌、頬、口蓋や歯肉などは、すべて重層扁平上皮という粘膜で覆われています。口腔がんの多くが、この粘膜から発生する「扁平上皮がん」であり、部位としては、舌にもっとも多く、次いで歯肉や頬粘膜などに多く発生します。

口腔がんは、初期の段階ではあまり自覚症状はありません。進行すると潰瘍ができ出血する場合や、硬いしこりとなり痛みを伴います。さらに進行すると、顎の下や首のリンパ節、さらには肺や肝臓などに転移することもあります。

口腔がんが発生する原因としては「アルコール」や「たばこ」、「適合の悪い義歯や虫歯による口腔粘膜への慢性的な刺激」などが危険因子とされ、近年口腔がんの発症は、増加傾向にあります。

Q:口腔がん治療の問題点とは?

A:口腔の機能は、食べ物を噛んだり飲み込んだり、話したりといった、私たちの生活においてきわめて重要な役割を果たしています。

食べ物を上下の歯やあごの骨(顎骨)でかみ砕く機能を咀嚼機能といい、それらを喉の奥へと運ぶ機能を摂食・嚥下機能といいます。また、言葉を発する機能である構音も、口腔の重要な機能の1つです。

口腔がん治療においては、これらの「口腔機能をできるだけ損なわないよう工夫」することが重要です。初期のがんの場合、大きな機能障害を残すことはほとんどありませんが、進行したがんでは、舌や顎骨などを大きく切除しなければならないことが多く、その場合、口腔機能は大きく損なわれ、体のほかの部分の筋肉や骨などを移植する「再建手術」が必要となります。

Q:機能温存のための治療とは?

A:当院では、「動注化学療法」という治療を積極的に取り入れています。この治療法は、口腔がんに栄養を供給している血管にカテーテルを挿入し、抗がん剤をがんに直接流し込むと同時に、静脈から抗がん剤の毒性を中和する薬剤を投与する方法で、がんに対する直接的な効果がこれまでの化学療法よりも優れているばかりか、副作用が少ないことが特徴です。なかには、動注化学療法のみで、ほぼがんが消失する場合もあります。

口腔がんの診断では、病理組織検査による「組織診断」が重要です。同じ口腔がんでも、組織の悪性度(悪さの程度)が高いものや低いものがあり、悪性度が低~中等度のがんは、術前の動注化学療法に対する効果が高く、低侵襲手術や手術の回避により口腔の機能温存が可能となる場合があります(写真1、2、3)。このように、組織診断は、治療効果の予測にとっても有用です。

口腔がんは、見た目が多様なため、口内炎などの他の病気と区別がつきにくい場合があります。「なかなか治らない」と思っていた口内炎が、実はがんであったりする場合も珍しくありません。初期の口腔がんであれば、ほぼ100%治癒が期待できます。当院における進行がんを含めた口腔がんの病期(進行度)別の5年生存率は、I期95.8%、II期89.9%、III期73.1%、IV期67.3%で、いずれも全国集計を上回っています。また最近では、再発や転移をした進行がんに対して、がん細胞を狙い撃ちにする分子標的薬や、免疫治療薬が一部で保険適用となり、効果的な場合があります(写真4、5)。

口腔内は、特別に診断機器を使用せずに診察が可能であり、口内炎や歯肉炎がなかなか治らないなど気になる症状があれば、ぜひ受診してください。

一言メモ

  1. 口の中を専門用語で「口腔」と呼び、そこにできるがんが「口腔がん」です。
  2. 日本では、人口の高齢化とともに、その罹患数や死亡数は増加傾向です。県内では、一部の自治体で「口腔がん検診」が始まりました。
  3. 全国的にも、口腔がんを啓発する活動は広がりをみせています。
写真1:舌に発生したがんに対する動注化学療法(青色の部分は抗がん剤が流入する領域)

写真1:舌に発生したがんに対する動注化学療法(青色の部分は抗がん剤が流入する領域)

写真2:動注化学療法でほとんどのがんが消失し、放射線治療による舌の温存が可能となりました。

写真2:動注化学療法でほとんどのがんが消失し、放射線治療による舌の温存が可能となりました。

写真3:放射線治療で治癒した後の口腔内

写真3:放射線治療で治癒した後の口腔内

写真4:点線の内部は、上あごに発生したがん

写真4:点線の内部は、上あごに発生したがん

写真5:免疫治療薬によって完全にがんが消失

写真5:免疫治療薬によって完全にがんが消失

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