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富山大学附属病院の先端医療

Q:大腸がんの早期発見・早期治療―大腸がん

富山大学附属病院の先端医療

光学医療診療部

Q:大腸がんの早期発見・早期治療―大腸がん

藤浪斗/准教授

Q: 早期大腸がんには症状がありますか?

A:大腸がんに伴う症状として、腹痛、便秘、下痢、血便、食欲不振、体重減少などがあげられますが、いずれの症状も出現した時には、かなり進行した状態です。また、かなりの進行がんであっても症状がないこともあります。早期の大腸がんともなると、症状は全くありません。進行がん(写真1a)と早期がん(写真1b)の典型的な写真を示します。進行がんでは腫瘍により大腸の内腔が完全に詰まり出血していますが、早期がんでは内腔が広く出血もないため症状が出にくいことが分かると思います。

早期がんは症状がないため、大腸がん検診(便潜血検査)で要精密検査となり、大腸内視鏡検査を受けて発見されるケースがもっとも多いです。しかし、「2回のうち1回だけ陽性なので大丈夫」「もう1回受けてみたら陰性だった」などの理由で精密検査を避けて通らず、1回でも陽性を指摘されれば大腸がんの疑いがあるため、必ず精密検査を受けてください。

Q:どのような大腸精密検査がありますか?

A:大腸精密検査には、内視鏡検査、CT検査、注腸造影検査がありますが、最も多く行われているのが大腸内視鏡検査です。大腸内視鏡検査では、主に大腸ポリープが発見されますが、大腸ポリープにもさまざまな形や大きさのものがあり、良性と悪性を区別する必要があります。内視鏡検査技術の進歩により、小さなポリープも発見しやすくなり、発見したポリープを色素染色や特殊光で観察し、拡大観察することで良性と悪性の区別も可能になりました。当院では、こうした技術で適切な診断を行い、安全にかつ完全に切除できるものについては、日帰りで大腸ポリープの切除を行っています。

Q:早期大腸がんの治療法について教えてください

A:早期大腸がんでは、切除後に再発がほとんどない治療を行う必要があります。特に大きさが20mmを超えると、取り残しが起こり再発する危険性もあります。当院では、このような早期大腸がんに対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治療を行っています。

大腸ESDは、2012年に保険適応となった比較的新しい治療法で、難しい治療とされています。その理由は、大腸の壁の厚みが2〜3mmしかなく、その薄い大腸表面の一部を高周波ナイフ(電気メス)で薄く切って剥がす穿孔などの偶発症を招く危険性があり、慎重で確実な治療技術が要求されます。大腸壁が薄いため、穿孔(腸に孔があくこと)などの偶発症を招く危険性があります。また大腸がんが存在する部分でも、治療難易度が大きく違うため、治療技術に習熟した内視鏡医のいる医療機関で治療を受ける必要があります。

大腸ESDの方法についてご紹介します(写真2)。まず、病変のあるところまで内視鏡を挿入します。大腸がんの周囲をよく観察し、病変の周囲粘膜を高周波ナイフで1周切り離します。粘膜下層に十分液体を注入し膨隆させてから、粘膜下層を高周波ナイフで剥離していきます。この粘膜下層の剥離を効率よく行うために、当院では病変を一定方向に牽引できるS-Oクリップ®(ゼオンメディカル)を用いて治療を行います。このS-Oクリップによる牽引効果で、剥離する粘膜下層の視認性が向上し、治療をより安全に行うことが可能になります(写真2a〜f)。当院では、この方法を2017年6月から導入したことにより、多くの患者さんで手術時間の短縮や、一括切除率の改善、更に偶発症率を低下させることができました(表1)。

当院の大腸ESDスケジュールは、基本的に前日に入院していただき、入院翌日に治療を行い、治療の翌日から食事を開始します。腫瘍の大きさや出血等の合併症にも左右されますが、大体5日程度の入院です。

当院は、大腸精密検査から日帰りポリープ切除、そして難度の高い内視鏡治療まで、患者さんの負担が少ない検査・治療を目指し、スタッフ一同サポートいたしますので、紹介状をご用意いただき、受診手続きをしてください。

一言メモ

  1. がん死亡の第2位が大腸がんです。便潜血が1回でも陽性であれば「大腸内視鏡検査」を受けましょう。
  2. 大腸ESDは難易度の高い内視鏡治療ですので、治療経験数の多い医療機関での治療をお勧めします。
写真1a:進行がんはがんによる狭窄で、便も通らない状態です。

写真1a:進行がんはがんによる狭窄で、便も通らない状態です。

写真1b:早期大腸がんは内視鏡でも発見が難しく、症状は全くありません。

写真1b:早期大腸がんは内視鏡でも発見が難しく、症状は全くありません。

写真2a:大腸がんに沿って周りの粘膜を1周切り離します。
写真2b:ばねの力で病変を牽引する「S-Oクリップ」です。
写真2c:S-Oクリップを切除する病変の一端に設置します。
写真2d:ばねを適度に引っ張り固定することで、一定の牽引力が得られます。
写真2e:粘膜下層がばねの牽引力で視認性が向上し、安全・確実な治療が可能です。
写真2f:切除した病変は、病理検査に提出し、治療効果を判定します。

写真2a:大腸がんに沿って周りの粘膜を1周切り離します。
写真2b:ばねの力で病変を牽引する「S-Oクリップ」です。
写真2c:S-Oクリップを切除する病変の一端に設置します。
写真2d:ばねを適度に引っ張り固定することで、一定の牽引力が得られます。
写真2e:粘膜下層がばねの牽引力で視認性が向上し、安全・確実な治療が可能です。
写真2f:切除した病変は、病理検査に提出し、治療効果を判定します。

表1:大腸ESDでの牽引法の効果

表1:大腸ESDでの牽引法の効果

0〜9

A〜Z

あ行

か行

さ行

た行

な行

は行

ま行

や行

ら行

わ行