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富山大学附属病院の先端医療

性同一性障害(GID)に対する外科治療-ジェンダーセンター

富山大学附属病院の先端医療

形成再建外科・美容外科

性同一性障害(GID)に対する外科治療-ジェンダーセンター

佐武利彦/診療科長・特命教授

LGBTQ+、トランスジェンダーとは?

セクシュアルマイノリティーであるLGBTには、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)がありますが、LGBTQ+と表現することもあります(図1)。Q(クエスチョニング・クィア)は心の性や好きになる性が決められない、もしくは男性でも女性でもない、+(プラス)はそれ以外に、さまざまな性があることを意味しています。

これまでの国内調査では、全体の8.6%がLGBTQ+で、そのうちトランスジェンダーが1.8%と報告されています。身体の性別に対して、心の性別に違和感がある状況をトランスジェンダー、性同一性障害(GID: Gender IdentityDisorder)と呼びますが、トランスジェンダー女性(身体の性が男性で、心の性が女性)、トランスジェンダー男性(身体の性が女性で、心の性が男性)に大別されます(図2)。身体性に対して強い違和感を持ちながら生活されているGID患者さんも多いため、治療環境の整備が望まれます。

性同一性障害の診断と治療は?

産婦人科医もしくは泌尿器科医が、身体所見(場合により超音波検査を含む)、染色体検査、ホルモン検査を行い、身体的性別の診断を行います。また2名の精神科医がそれぞれ、療育歴、性行動歴、性別違和の実態を把握し、他疾患を除外して、GIDの診断を行います。その結果を元に、ジェンダー判定会議(精神科医、産婦人科医、泌尿器科医、形成外科医、弁護士などで構成)で診断を確定し、患者さん本人が望む性別に向けての治療開始の可否を判定します(図3)。

治療は本人の希望に沿って行われます。精神的サポートを受けながら、実生活経験(Real Life Experience; RLF)、ホルモン療法などが行われます。このような治療の後に、患者さんの希望に応じて外科治療が選択されます。

ジェンダーセンターの役割と外科治療について

2021年10月1日、富山大学附属病院にジェンダーセンターが設立されました。GIDの患者さんが、安全かつ安心して、希望される乳房切除術や、性別適合手術をはじめとする外科治療を受けられるようにするためです。形成再建外科・美容外科、第二外科、産婦人科、泌尿器科、神経精神科、小児科など6つの診療科の医師、看護師、臨床心理士、その他、計23名の多職種からなるチームで、患者さんをサポートしています。

これまでは、北陸地方のGID患者さんが手術を受ける場合、専門的な外科治療をおこなう施設がないため、国内の遠方施設や、フィリピン・タイなど海外に渡航して治療を受ける必要がありました。コロナ禍で更に状況が難しくなり、当院でGID患者さんへの外科治療を開始してほしいという要望が多く寄せられるようになりました。そこで、2021年1月から患者さんを受け入れるための準備に着手しました。ワーキンググループの発足、GIDに関する勉強会・講演会の開催、トランスジェンダーの手術に関しては国内でも実績のある山梨大学医学部形成外科からの技術指導を受け、学内での倫理審査も終え、GID患者さんの外科治療を行っています。

外科治療は、トランスジェンダー男性とトランスジェンダー女性でそれぞれ異なる手術が行われます(図4)。国内で現在、最も多く行われているのが、トランスジェンダー男性への乳房切除術です。そもそも乳房の大きさと形態は、患者さんそれぞれで異なるため、手術方法も大きく分けて4つあります。重要なのは、乳腺をしっかりと切除しつつ、乳頭乳輪を小さくして男性の胸壁の形に近づけることです。また念のために、切除した乳腺の組織内に悪性腫瘍がないかどうかも確認します。当院では、切除後に失われる乳頭乳輪の知覚の神経再建や、傷痕を目立たなくする切開アプローチ、乳頭乳輪の血流障害を予防する工夫なども合わせて行います。性別適合手術は、性腺を除去して、外性器を望む性別に近づける手術になります。GIDの性別取り扱いの特例に関する法律(2003年成立)により、一定の条件を満たした上で、性別適合手術後に戸籍の性別変更が可能となっています。またそれ以外に、トランスジェンダー男性への顔面男性化手術、トランスジェンダー女性への豊胸術、顔面女性化手術や、喉頭隆起切除術などの治療もあります。

課題と今後の展望

2018年4月からGID患者さんを対象とした乳房切除術、性別適合手術は、GID学会の認定医が在籍する認定施設では、一定の条件下において保険適用で実施できることになりました。
しかし、ホルモン療法を先行して開始している場合には、これらの外科治療は混合診療となり、一般的には保険治療の対象とはなりません。患者さんのためには、こういった問題が早期に解決されることを願ってやみません。

図1:LGBTQと、性のあり方の4要素

図1:LGBTQと、性のあり方の4要素

図2:性同一性障害GIDとは?

図2:性同一性障害GIDとは?

図3:性同一性障害の診断、治療、性別変更までの流れ

図3:性同一性障害の診断、治療、性別変更までの流れ

図4:性同一性障害の外科治療

図4:性同一性障害の外科治療

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