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富山大学附属病院の先端医療

Q: 心房細動による脳梗塞予防のための抗凝固療法に代わるカテーテル治療とは?―経皮的左心耳閉鎖術

富山大学附属病院の先端医療

第2内科(循環器内科)

Q: 心房細動による脳梗塞予防のための抗凝固療法に代わるカテーテル治療とは?―経皮的左心耳閉鎖術

田中修平/診療助手、 上野博志/講師

Q: 心房細動の症状と合併症は何ですか?

A:心臓の上方の小さな2つの部屋を左右の心房、下方の大きな2つの部屋を左右の心室と呼びます。心臓は心房にある洞房結節から電気信号を送り、心室に伝えることによって拍動させていますが、心房細動が起きると無秩序な電気信号が心房から高頻度に発生します。心房が小刻みに高頻度かつ不規則に震え、その一部のみが心室に伝わることにより不規則な拍動になります。それにより心臓のポンプ機能も20〜30%低下します。このため、ほとんどの心房細動患者さんは動悸や疲労感、胸部の不快感、息切れなどを自覚します。ポンプ機能が低下することにより、心不全を発症することもあります(心房細動の治療に関してはカテーテルアブレーションの項を参照)。

また、心房細動に対して適切に対処しないと、正常な調律の人と比べ、約5倍脳卒中のリスクが高くなると言われています。左心房、特に左心耳という箇所で血流が停滞することにより、血のかたまり(血栓)が形成され、血流にのって血栓が脳まで流れると、脳梗塞を引き起こすと言われています。

Q: 心房細動の合併症の1つである脳梗塞の予防方法を教えてください

A:現在、心房細動で、かつ脳梗塞リスクが高い患者さんに対する一般的な治療は、血栓形成を予防する薬である抗凝固薬を内服することです。その種類としては、ワルファリンや直接経口抗凝固薬(ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)といったものがあります。特に直接経口抗凝固薬は、ワルファリンと比較し食事制限もなく、頻回の血液検査による効果のモニタリングも不要で、かつ脳梗塞や全身塞栓症の発生リスクを低減すると報告されており、多くの患者さんが服用しています。

その一方で、抗凝固薬は生涯服用を続ける必要があり、しかも、血液が固まらないようにして血栓を予防することから、服用していない人と比較し出血リスクが高まりますので、脳出血や消化管出血などの病気の既往がある患者さん、歩行が不安定で転倒を繰り返している患者さんなどは、継続的な服用は困難なこともあります。また、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患のため、抗血小板薬という別の種類の血液が固まりにくくなるような薬を服用しなければいけない患者さんにおいても、複合的に出血のリスクは高まります。そのような患者さんには、抗凝固薬に代わる治療として、左心耳閉鎖術というカテーテル治療を提案しています (図1)。

Q: 脳梗塞予防のためのカテーテル治療について教えてください

A:心臓内で形成される血栓のほとんどが、左心房内の左心耳に形成されることから、左心耳を閉鎖することで脳梗塞リスクを低下させ、抗凝固薬を中止できるようにします。治療前にCT検査もしくは、経食道心エコー検査で治療が可能かどうかを詳細に評価します。治療は経食道心エコーによる持続的な観察を必要とするので、原則全身麻酔で行います。脚の付け根の静脈 (大腿静脈)からカテーテルを挿入し、右心房から心房中隔という壁に小さい孔を開け、左心房の端にある左心耳までカテーテルを持ち込みます。そのカテーテル内に、WATCHMANというデバイス(図2)を折りたたんで持ち込み、左心耳で展開し留置します。留置後に、左心耳全体にWATCHMANが隙間なく広がり固定されていることが確認できたら、ケーブルから外して留置を終了します(図3)。ほとんどの患者さんが治療の翌日から、これまで通りの生活が可能になります。治療から45日後の経食道心エコー検査で経過良好なことを確認して、抗凝固薬を終了することができます。

当院では、2020年6月に初回の治療を開始し、2021年11月現在、80人以上の患者さんに留置しており、国内で4番目の件数を経験しています。プロクター資格(新規施設に技術指導を行う資格)を持つ上野医師をはじめとして、術者2名とエコーの専門医で協力して治療を行っており、ほとんどの患者さんで抗凝固薬が中止できており、これからも患者さんの病状に応じた治療法を提案させていただきます。

一言メモ

  1. 心房細動では、動悸や息切れなどの症状の他に、合併症として脳梗塞がよく知られており、原則抗凝固薬による予防が重要です。
  2. 転倒歴があったり、出血リスクの高い患者さんにおいては、抗凝固薬の継続が難しく、そのような患者さんには、出血イベントを減らすことのできる代替治療として、WATCHMANによる経皮的左心耳閉鎖を提案しています。
  3. 当院では、国内有数の症例数を経験しており、患者さん毎に適した治療法を提案させていただきます。
図: 心原性塞栓症予防の概略

図: 心原性塞栓症予防の概略

写真:経皮的左心耳閉鎖前後の経食道心エコー画像(左:治療前、右:治療後)

写真:経皮的左心耳閉鎖前後の経食道心エコー画像(左:治療前、右:治療後)

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