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富山大学附属病院の先端医療

Q:世界から注目!もやもや病に対する脳血行再建術―もやもや病

富山大学附属病院の先端医療

脳神経外科

Q:世界から注目!もやもや病に対する脳血行再建術―もやもや病

黒田敏/教授

Q:もやもや病とはどんな病気ですか?

A:もやもや病は、頭の中の頚動脈とその枝が細くなっていく原因不明の疾患です(図1)。脳の血流がとても悪くなるので、脳の中のとても細い血管が拡張して、なんとか脳に血流を送ろうとします。その血管がタバコの煙のように「もやもや」して見えることから、日本の研究者によって「もやもや病」と命名されて50年が経ちました。日本、韓国、中国などの東アジアに多く発生し、約20%の患者さんで家系内発症が確認されています。もやもや病は子供にも大人にも発生します。

子供の場合は、5〜6歳前後の患者さんが最も多く、多くの場合、突然、数分〜30分程どちらかの、あるいは、両方の手足の力が入りにくくなる一過性脳虚血発作(TIA)をきたします。特に、熱い麺類を食べる、泣く、吹奏楽器を吹く、運動するなど、通常よりも呼吸が激しくなることで発作が誘発されます。4歳未満の乳幼児では、TIAのほか、脳梗塞で発症することが多いと知られています。また、朝起きた時に前頭部の強い頭痛、嘔吐の発作を繰り返すこともあります。大人の場合は、これらTIA、脳梗塞のほか、もやもや血管の破裂によって、脳出血を発症することもあります。子ども、大人とも、これらの発作を放置していると、重篤な脳梗塞や、脳出血をきたし、日常生活に大きな支障をきたすことが知られています。

もやもや病は多くの場合、脳MR検査で診断することが可能です。脳の断層写真(MRI)のほか、MRを用いた血管撮影(MRA)が有用です。もやもや病と診断された場合、確定診断や治療方針の決定のため、カテーテルを用いた脳血管撮影や、脳血流検査(SPECT)が必要です。

これまでは、脳の血管が細くなっている原因が「もやもや病」によるものか?動脈硬化によるものか?区別できないことがありましたが、2015年に私自身が、MRIの特殊な撮影法を応用すると、高い信頼度で、両者を区別できることを明らかにして以来、もやもや病の診断精度が飛躍的に向上しました。私は、厚生労働省のもやもや病研究班で、長年にわたって中心的役割を果たしています。2021年度に改訂される「もやもや病」の診断基準にも、この方法が新たに採用される予定です。

Q:もやもや病はどのように治療するのですか?

A:もやもや病では、病気を根本的に治す薬はありません。また、細くなってしまった頚動脈を広げて治すことも大変危険で不可能なので、バイパス手術によって脳血流を改善させることが一般的です。

バイパス手術には、頭皮の動脈を脳表の動脈に直接つないで脳血流を増加させる「直接バイパス術」に加えて(図2)、もやもや病に特異的な手法として、側頭部の筋肉などを脳の表面に貼りつけて脳血流を改善させる「間接バイパス術」が行われています。もやもや病では、脳表の動脈が0.5〜1.0mmと大変細いことに加えて、動脈の壁が大変薄いことが特徴です。ですから、直接バイパス術を実施するには、外科医として、かなりの修練を積まなければなりませんが、術後すぐに脳血流を改善させることができるので、脳梗塞などの発作を予防する点で即効性があります。

一方、間接バイパス術は手技が容易な反面、脳血流の改善に3〜4か月を要するため、術後、脳梗塞などの合併症の頻度が高くなるほか、大人の約30%では間接バイパス術が機能しないことが知られています。

当院では、私が赴任した2012年以降、一貫して直接バイパス術、間接バイパス術の両者を同時に実施する「複合バイパス術」を例年20〜25件あまり実施しています。治療件数は国内でもトップクラスであることはもちろん、1998年に私が開発した新しい手術法は、従来のものよりも5〜20年の長期成績が良好で、「ultimate bypass(究極のバイパス手術)」と呼ばれていることなどから、県内のほか、関東、東北、東海地方から多数の患者さんが当院で治療を受けています。また、ヨーロッパからの患者さんたちに対しても治療を実施してきました。さらに、この手術法を学ぶため、国内の脳神経外科医のほか、ロシア、インド、ネパール、中国など諸外国の脳神経外科医が当院を訪れています(写真)。

図1:正常(左)、もやもや病(右)の脳血管撮影

図1:正常(左)、もやもや病(右)の脳血管撮影

図2:もやもや病に対する直接バイパス術

図2:もやもや病に対する直接バイパス術

写真:富山大学脳神経外科チームの面々(2021年4月)

写真:富山大学脳神経外科チームの面々(2021年4月)

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