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富山大学附属病院の先端医療

Q:免疫性神経疾患―多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎(NMOSD)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

富山大学附属病院の先端医療

脳神経内科

Q:免疫性神経疾患―多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎(NMOSD)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

中辻裕司/教授、 林智宏/医員

MS/NMOSD、CIDPはいずれも我が国の指定難病であり、希少疾患です。全国的にこれらの疾患に精通した脳神経内科医は少ないですが、当院には富山県および近隣県から患者さんが来院されており、診療経験の豊富な神経内科専門医が多数在籍しています。

多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMOSD)の診断と最適な治療

Q:多発性硬化症(MS)ってどんな病気?

A:多発性硬化症(MS)は、中枢神経系(脳・脊髄)に脱髄病巣(図1)ができて、病巣の場所によって脱力、しびれ、歩行障害、視力障害、頻尿などさまざまな症状を呈します。20〜50歳代の若年成人女性に多い病気で、男女比は約1対3です。多くは一旦発症すると良くなったり(寛解)、悪くなったり(再発)を繰り返します。

例えば、手足は脳神経細胞の指令が、電気コードの電線に相当する神経軸索で伝えられ動きますが、電線を取り巻く絶縁体に相当する髄鞘が障害され、指令が伝わらず、麻痺やしびれとして現れます。原因は、本来自分を感染などから守る免疫システムが、誤って自分の身体を攻撃する自己免疫疾患と考えられています。

Q:視神経脊髄炎(NMOSD)ってどんな病気?

A:多発性硬化症(MS)と症状が似ていて区別がつきにくい病気ですが、視神経障害による視力障害や、脊髄障害による歩行障害、排尿障害、体幹や足のしびれが主な症状です。一般にNMOSD(エヌエムオーエスディー)と呼ばれます。MSと比較して重症で、女性がより多い(男女比1対9)という特徴があります。

原因は、抗アクアポリン4抗体という自己抗体ができて、脳脊髄に存在するアストロサイトという細胞を障害することで、2次的に神経障害をきたします。また最近では、抗MOG抗体関連疾患というNMOSDに類似した自己免疫疾患もあるので、注意深く診断します。

Q:多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMOSD)の治療はどうしますか?

A:急性期(初発、再発期)治療と再発予防治療(寛解期)に分けて考えます(表)。

・急性期治療:MS、NMOSDともに、ステロイドパルス療法という副腎皮質ホルモンの点滴治療を行います。効果不十分なとき、血液浄化療法という治療を行います。

・MSの再発予防治療:現在、国内では①インターフェロン・ベータ(ベタフェロン、アボネックス)、②グラチラマー酢酸塩(コパキソン)、③フマル酸ジメチル(テクフィデラ)、④フィンゴリモド(イムセラ、ジレニア)、⑤ナタリズマブ(タイサブリ)、⑥オファツムマブ(ケシンプタ)が認可されています。また罹病期間が長くなると、初期の再発寛解型MSから2次進行型MSに移行する患者さんがおられ、これまで有効な治療薬が無かったのですが、シポニモド(メーゼント)が認可されました。これらの薬は疾患修飾薬と呼ばれ、患者さんの予後を格段に改善できるようになりました。ただし効果が大きい反面、副作用もあること、患者さんによって効く人、効かない人がいることを考慮し、慎重に治療する必要があります。

・NMOSDの再発予防治療:これまでは、少量のステロイド剤を服薬しながら、効果不十分な時や、ステロイドの副作用を軽減する目的で免疫抑制剤を併用していましたが、最近、新規疾患修飾薬3剤が認可されました。①エクリズマブ(ソリリス)、②サトラリズマブ(エンスプリング)、イネビリズマブ(ユプリズナ)ですが、MSの治療薬の場合と同様に効果が大きい反面、副作用もあることを理解して、適切に使用する必要があります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の診断と最適な治療

Q:慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)ってどんな病気?

A:2か月以上かけてゆっくり進行する、手足の筋力低下(手足に力が入らない、疲れやすい、手足が思うように動かない)や、感覚障害(手足がしびれる、足裏の感覚がにぶい)を生じる末梢神経の病気です。

患者数は10万人あたり2人程度で、発症年齢は、小児〜高齢者まで広い年齢層にまたがります。前記のMSやNMOSDと同様に、神経軸索をとりかこむ髄鞘に対する自己免疫異常が原因と考えられており(図2)、再発・寛解を繰り返します。MSやNMOSDは中枢神経に病巣ができる病気ですが、CIDPは末梢神経に病巣ができる病気である点で異なります。

Q:慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療はどうしますか?

A:急性期(初発、再発期)治療と、再発予防治療(寛解期)に分けて考えます。

・急性期治療:免疫グロブリン点滴治療、ステロイド治療、血漿交換療法が3本柱です。CIDPの診断であれば、いずれかの治療で効果があると言われています。健康な人から集められた免疫グロブリンや、副腎ステロイドを点滴することで、自分の細胞を攻撃する自己免疫異常を抑えることが期待されます。血漿交換は、血液中の異常な自己抗体を直接取り除く治療です。

・再発予防治療:定期的な免疫グロブリン(IVIg)療法や、免疫グロブリン皮下注射療法(ScIg)、経口の副腎皮質ステロイドの内服を行います。再発を繰り返すことで症状がさらに進行するため、再発に関係なく定期的に治療を繰り返します。

図1:大脳、小脳、脊髄、視神経に病巣ができ、さまざまな症状が出現します。

図1:大脳、小脳、脊髄、視神経に病巣ができ、さまざまな症状が出現します。

図2:CIDPは、末梢神経の髄鞘が障害(=脱髄)される病気です。

図2:CIDPは、末梢神経の髄鞘が障害(=脱髄)される病気です。

表:MSとNMOSDの急性期および再発予防の治療

表:MSとNMOSDの急性期および再発予防の治療

0〜9

A〜Z

あ行

か行

さ行

た行

な行

は行

ま行

や行

ら行

わ行