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富山大学附属病院の先端医療

Q:切迫早産の患者さんに対する子宮内環境を評価した病態別治療戦略―切迫早産

富山大学附属病院の先端医療

産科婦人科

Q:切迫早産の患者さんに対する子宮内環境を評価した病態別治療戦略―切迫早産

米田哲/診療准教授

Q:切迫早産とは?

A:妊娠22週0日から妊娠36週6日までに出産となる場合、『早産』と定義されています。早産で産まれてくると、さまざまな病気になりやすく、発達の遅れも生じやすくなるとされています。また、将来、成人病になりやすいことも分かっています。国内における早産率は、約5.7%であり、世界的にみると低い割合ですが、その対策は重要です。

その主な病態は、子宮内の『炎症』であることが分かってきました。この子宮内炎症の原因の約3〜5割は、『子宮内病原微生物(いわゆるバイ菌)の存在』と考えられています。また、臨床的な特徴として、早く生まれてしまう重症の早産であればあるほど、子宮内病原微生物の存在率が高いことが我々の研究データで示されています。

Q:子宮内のバイ菌を判別する最新の方法とは?

A:病原微生物を同定するための検査法は、通常、細菌培養検査で行われます。この培養検査は、栄養素の入った培地と呼ばれる液体や寒天上でバイ菌を増やして検査するのですが、すべての細菌を同定することはできません。

また、結果が出るまで2〜7日間の時間が必要ですので、速やかに抗生物質を選択することができませんでした。この問題を解決するために、臨床検査部とタッグを組み、正確かつ迅速に病原微生物を判別できるPCR法(遺伝子増幅法)を開発することに成功しました。このシステムにより、病原微生物がわずかでもいれば陽性と評価でき、しかも、3~4時間で結果を知ることができます。

一方、子宮内炎症についても、羊水中サイトカイン(IL-8値)を用いて同時に評価しています。この結果、早期の早産であるほど、子宮内炎症の頻度が高く、さらに妊娠27週未満の早産(1000g未満)では、6〜7割に子宮内病原微生物が存在している病態が明らかになってきました(図1)。このような子宮内病原微生物は、一般細菌のみならず、ウレアプラズマ感染も関与していることが判明しています(図2)。

Q:病態別治療戦略とは?

A:切迫早産、頚管無力症の患者さんは、このような子宮内環境の破綻がベースにあることが多く、診断がなされてからの治療には限界もあります。しかし、我々の開発したPCR法は、正確、かつ迅速にバイ菌の有無を評価できるため、適切な抗生物質を速やかに選択することが可能となり、その結果、妊娠期間の延長効果(平均30日間)を認めています(図3)。

また、バイ菌のいない無菌性の子宮内炎症に対しては、その炎症が軽度であれば、黄体ホルモン(筋肉注射)を投与することにより、妊娠期間が延長(平均26日間)することが分かってきました(図4)。このような病態別治療戦略が、従来子宮収縮抑制剤の点滴治療に新たに追加する形で可能となっています。しかし、この治療を可能とする羊水検査は、現在のところ保険収載されておらず、研究段階として行っています。

Q:早産既往歴は、最大の早産リスク因子ですか?

A:一度でも早産の既往があると、次回の妊娠も早産のリスクが高くなることが知られています。前述のように、子宮内環境のなんらかの破綻が、自然早産を招く原因であるため、妊娠初期よりその対策が必要です。残念ながら、早産の予防法として確立された方法はありませんが、前回の早産原因、病態を理解することで、次回の妊娠に向けた対応は変わってくることもあります。よって、プレコンセプション(妊娠前の相談)が必要なのです。当科では、このような相談にも対応可能です。

図1:分娩週数別にみた子宮内炎症・感染の頻度

図1:分娩週数別にみた子宮内炎症・感染の頻度

図2:新生児:出生体重別にみた(入院時)羊水中病原微生物割合(n=108)

図2:新生児:出生体重別にみた(入院時)羊水中病原微生物割合(n=108)

図3:適切な抗菌薬投与群と不適切抗菌薬投与群における妊娠延長期間の比較

図3:適切な抗菌薬投与群と不適切抗菌薬投与群における妊娠延長期間の比較

図4:子宮内炎症別、黄体ホルモンの治療効果

図4:子宮内炎症別、黄体ホルモンの治療効果

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