ジェンダーセンター

特徴・特色

 これまで北陸地方には性別不合(GI; Gender Incongruence)の当事者の方に対する外科的治療を行う施設がありませんでした。そのため、乳房切除術、性別適合手術をはじめとする手術を希望された場合には国内の遠方施設や、海外に渡航して治療を受ける必要がありました。昨今のコロナ禍で状況がさらに厳しくなり、富山大学附属病院で外科的治療を開始してほしいという要望が多く寄せられるようになりました。その要望に応えるべく、2021年10月1日、当院にジェンダーセンターが設立されました。ジェンダーセンターは形成再建外科・美容外科、第二外科、産婦人科、泌尿器科、神経精神科、小児科など6つの診療科の医師、看護師、臨床心理士など、計22名の多職種からなるチームで構成され、外科手術を考えている当事者の方が安全に安心して手術を受けられるようにトータルサポートします。

LGBTQとトランスジェンダー

 セクシュアルマイノリティーであるLGBTはL(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)、Q(クエスチョニング)の頭文字です(図1)。これまでの国内調査では、全体の8%がLGBTで、そのうちトランスジェンダーが約1%と報告されています。身体の性別に対して心の性別に違和感がある状況をトランスジェンダー、性別不合(GI)と呼びます。トランスジェンダーはトランス女性(身体の性が男性で、心の性が女性)、トランス男性(身体の性が女性で、心の性が男性)に大別されます(図2)が、心の性がどちらでもないXジェンダーの方もいます。身体性に対して強い違和感を持ちながら生活されているGI当事者の方に対する治療環境の整備が望まれます。

GIの診断と治療

 産婦人科医もしくは泌尿器科医が、身体所見(場合により超音波検査を含む)、染色体検査、ホルモン検査を行い、身体的性別の診断を行います。また2名の精神科医がそれぞれ、療育歴、性行動歴、性別違和の実態を把握し、他疾患を除外して、GIの診断を行います。その結果を元に、ジェンダー判定会議(精神科医、産婦人科医、泌尿器科医、形成外科医、弁護士などで構成)で診断を確定し、当事者が望む性別に向けての治療開始の可否を判定します(図3)。
 治療は本人の希望に沿って行われます。精神的サポートを受けながら、実生活経験(Real Life Experience; RLF)、ホルモン療法が行われます。

GIの外科治療

 外科治療はトランス女性とトランス男性でそれぞれ異なる手術が行われます(図4)。国内で現在、最も多く行われているのが、トランス男性への乳房切除術です。そもそも乳房の大きさと形態は、当事者の方それぞれで異なるため、手術方法も大きく分けて4つあります。重要なのは乳腺をしっかりと切除しつつ、乳頭乳輪を小さくして男性様の胸壁を形成することです。当院では切除後に失われる乳頭乳輪の神経再建や,傷痕を目立たなくする切開アプローチ、乳頭乳輪の血流障害を予防する工夫なども合わせて行い、切除した乳腺の組織内に悪性腫瘍がないかどうかも確認します。
 性別適合手術は、性腺を除去して、外性器を望む性別に近づける手術です。性別取り扱いの特例に関する法律(2003年成立)により、一定の条件を満たした上で、性別適合手術後に戸籍の性別変更が可能です。またそれ以外に、トランス女性への豊胸術、顔面女性化およびトランス男性への顔面男性化手術、トランス女性への喉頭隆起切除術などの治療もあります。
 富山大学附属病院では、2021年にトランス男性への男性型胸壁形成術から開始しました。性別適合手術やその他の手術まで完結できるような体制の準備を行っています。

診療チーム

職名 所属・役職 氏名
医師(センター長) 形成再建外科・美容外科 佐武利彦(北陸GIDネットワーク)
医師(副センター長) 泌尿器科 渡部明彦
医師 形成再建外科・美容外科 瀧 京奈(北陸GIDネットワーク)
医師 第二外科 松井恒志
医師 産科婦人科 中島彰俊
医師 産科婦人科 鮫島 梓(北陸GIDネットワーク)
医師 産科婦人科 島 友子
医師 泌尿器科 渡部明彦
医師 神経精神科
医師 神経精神科 古市厚志(北陸GIDネットワーク)
医師 小児科 田中朋美
医師(学外有識者) 産科婦人科 種部恭子(北陸GIDネットワーク)
看護師 6名(2名 北陸GIDネットワーク)
臨床心理士 1名
事務 2名
社会保険福祉士・精神保健福祉士 1名

課題と今後の展望

 2018年4月からGI当事者を対象とした乳房切除術、性別適合手術は、GID学会の認定医が在籍する認定施設では、一定の条件下において保険適用で実施できることになりました。しかし、ホルモン療法を先行して開始している場合には、これらの外科治療は混合診療とみなされるため保険治療の対象とはなりません。富山大学附属病院では、トランス男性乳房切除術を自費診療で行っておりますが、GID学会の施設基準をクリアして、2024年度中の施設認定を目指しています。そして多くのGI当事者が富山大学附属病院にて保険診療で、安心して治療できるように尽力します。対象は県下だけでなく、北陸をはじめとする近隣県、全国でお困りの方を、広くお引き受けします。GIの当事者でお困りの方がいましたら、是非とも富山大学附属病院にお越しください。

ロゴマーク

ジェンダーセンター

富山県の県花であるチューリップをモチーフに3人の”人”をデザインし、性の多様性を表現しています。
また、ベースに使用している丸は、様々な背景をもつ人々を受け入れる姿勢を表現しています。

 

メインカラーの緑は富山県の自然あふれる環境をイメージしました。
またチューリップの白は、”誠実さ”・”新しさ”を意味する色です。
患者さんと私たちが信頼関係を築き、ジェンダーセンターがこれから多くの役割を担っていけるようにと願いを込めました。
当事者の方が自身の心の性に沿った身体性となり、新しい人生を送れるようにサポートいたします。

 

ジェンダーセンター