ホーム

特集

アーカイブ

富大病院最前線

がん医療のプロ集団束ねる

富大病院最前線 富山新聞にて隔週火曜日連載中

各診療科や各部署の取り組みをご紹介します。

第20回

がん医療のプロ集団束ねる

臨床腫瘍部部長・特命教授

菓子井 達彦

臓器ごとの枠を超え、横断的にがんを診療し、最新の薬物療法に取り組む。そんな専門家集団を束ねる。
抗がん剤と聞くと、強い副作用を思い浮かべる人もいるかもしれないが、状況は変わってきている。「一番進歩したのは副作用対策、特に吐き気の予防でしょうね」
以前は10人中7、8人が強い吐き気に襲われ、抗がん剤の効果は出ているのに治療を止めざるを得ないこともあったが、今では吐き気に見舞われるのは10人中1、2人だ。

 

●「分子標的治療」

「分子標的治療」という新手法も登場した。がん細胞が増殖するよう指令を出す遺伝子を狙い撃ちし、従来の抗がん剤より副作用が少なく、投与前に効果を予測できる場合もある。米食品医薬品局が新たに承認するがん治療薬の8割近くは分子標的薬だ。
「現在、肺がん患者で分子標的薬が効く人は半数ほどですが、将来、全体をカバーできるようになる。そのためにも現場での経験の蓄積が欠かせない」。北陸で富大附属病院だけが参加する分子標的薬の治験もあり、がん医療の発展を富山から支える。
父の跡を継いで開業医になろうと考えていた。研修医として最初に担当したのが肺がん患者で、手術可能な時期を過ぎており、抗がん剤治療を行った。今ほど効果的な薬がなく、副作用の予防法も十分ではなく、その人が苦しみながら亡くなるのを目の当たりにした。「なんとかしたい」と研究の道を歩み、米国の国立がん研究所に留学して先端研究に触れた。
肝に銘じることがある。「患者さんに我慢させないこと、遠慮させないこと、悲観させないことです」。患者が医師に症状を訴えるのを遠慮してしまう雰囲気をつくっては質の高いがん医療はできない。
「患者さんの立場になり、治療法や副作用対策などを時間をかけて説明し、前向きな気持ちで治療を受けてもらえるよう心がけています」
がんは怖いが、過剰に恐れなくていい時代が来る。そう感じさせてくれる、がん医療のプロである。

かしい・たつひこ 高岡市生まれ。金沢医科大卒。富山医薬大大学院修了。国立がんセンター研究所薬効試験部研修生、米・国立がん研究所肺がん生物学部門研究員などを経て、2007年富大附属病院がん治療部部長・准教授、13年から現職。富大大学院医学薬学研究部臨床腫瘍学講座教授。
菓子井 達彦