手術した幼児、成人までケア
歯科口腔外科診療科長
野口 誠唇やあごが裂けたままで生まれてくる先天異常「口唇(こうしん)口(こう)蓋裂(がいれつ)」の治療を専門とする。「幼い時期に手術を担当した子は、成人するまで責任を持って診療します」と表情を引き締める。
日本で500〜700人に1人の割合で生じるとされる口唇口蓋裂は、命が危険にさらされるものではない。最も心を砕くのは、成長の過程で子どもがきちんとご飯を食べられるかどうか、友人とおしゃべりできるかどうか。「人との交わりの中で、社会性を獲得してもらうことが、人の命を救うぐらいに大切です」と力を込める。
そのために、歯科口腔(こうくう)外科の言語聴覚士、耳鼻科や小児科の医師と連携し、チームで子どもを支える。母親が悩みを抱えるケースも多い。「いつ頃に傷が目立たなくなるかの見通しを説明する。両親の心のケアも欠かせません」
アジアでは、経済的な負担から、口唇口蓋裂の手術を受けることのできない患者が数多い。約20年前の札幌医大時代からインドネシアで無償治療のボランティアを続けている。今年も6月に現地に出向き、医療人の手術技術指導にも取り組む計画だ。
●あごに肩甲骨移植
祖父、父と三代続く歯科医である。国立病院医療センターの研究医時代、名医とうたわれた曽田忠雄氏と出会ったのを契機に、歯科口腔外科の高度な手術技術を学んだ。
現在は口腔がんなどであごが失われた場合、血管を伴う肩甲骨を移植し、あごを再建する手術もこなす。県内で同様の手術ができる医療機関はなく、先月に担当し、手術時間は約10時間に及んだ。これ以前には、上あごに大きながんができた患者を救った。高齢であったが「大好きなお酒がまた飲めるようになった」と聞き、喜んだ。
診療科の年間症例は、平均して約200と決して多くない。ただ、富大附属病院に身を寄せる患者は、県内の歯科では対応できないケースがほとんどである。患者一人一人に良質な医療を提供をするため、チーム一丸で最後の砦(とりで)を守る。