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富大病院最前線

地方型救急、富山から発信

富大病院最前線 富山新聞にて隔週火曜日連載中

各診療科や各部署の取り組みをご紹介します。

第3回

地方型救急、富山から発信

副病院長(医療安全管理担当)災害・救命センター長

奥寺 敬

救急医療のあり方を考える大きなきっかけとなったのは、1994年6月27日に長野県松本市で起きた松本サリン事件だ。信州大附属病院の救急医として被害者の治療に当たった。
「当時の救急医療では『想定外』の出来事だった」。事件現場に救急隊員はマスクも着けずに出動し、警察や消防、保健所の連携もままならなかった。
事件では医学部の教え子だった富山市出身の安元三井(みい)さん=当時(29)=が犠牲になった。「このまま風化させてはいけない」。経験をもとに行政に提言し、全国各地からの講演依頼に応じる。惨事から学んだ教訓を形にしていく責務があると肝に銘じている。
災害などの現場に医師や看護師を送る災害派遣医療チーム「DMAT」の創設に関わった。東日本大震災では、派遣先や派遣人数などの調整が思うようにいかず、十分な医療ができない場面もあった。その反省から、どこへ何人派遣するのが最適か、コンピューター上で訓練できるシステムの開発に携わった。
縁あって赴任した富山の地で、実感するのは地方都市の救急医療のもろさだ。多くの救急医は大都市圏へ流れ、慢性的に人手が不足している。「人繰りをするだけでは人材が疲弊し、育成にはつながらない」と危機感を募らせる。

 

●ドクターヘリに期待

県内では来年度にもドクターヘリが導入される見通しとなり、富大附属病院ではヘリポートの整備が進む。運用が始まれば、一刻を争う事故や災害の現場に医師が急行し、迅速な初期治療ができるようになる。「富山の救急医療に選択肢が増える。大きな一歩です」。専門医やフライトナースの養成に向け、県内の医療機関が一体となった取り組みに思いをめぐらせる。
来年6月、日本海側で初めてとなる日本臨床救急医学会を富山市で開催する。3千人以上の専門家が集まる総会のテーマは「地方型救急医療」だ。「ここでしか学べないことを提案していきたい」。地方の救急医療の未来像を、富山から発信する決意だ。

おくでら・ひろし 神戸市出身。1981年信州大医学部卒。信州大助教授などを経て、2003年から旧富山医薬大(現・富大医学部)救急・災害医学講座教授。専門は救急医学、災害医学。
奥寺 敬