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富大病院最前線

モヤモヤ病の治療拠点に

富大病院最前線 富山新聞にて隔週火曜日連載中

各診療科や各部署の取り組みをご紹介します。

第10回

モヤモヤ病の治療拠点に

脳神経外科診療科長

黒田 敏

「素晴らしい治療をしてくれてありがとう」。11月11日、富大附属病院を退院したデンマーク在住のルイス・アンデルセン君(9)は目を輝かせた。脳の血管が細くなる難病「モヤモヤ病」に苦しむ少年を救ったのは、黒田さん率いる脳神経外科の医療チーム。2年前、同じ病を患っていたルイス君の妹(8)の手術に続く成功で、家族に明るい笑顔を取り戻した。

 

●執刀数は210例

モヤモヤ病は、脳の太い動脈が細くなったり、詰まったりしたために起きる。脳血管の造影検査をすると、細くなった動脈の代わりに拡張した血管が煙のようにもやもやと見えることから名付けられた。脳の血流を確保する「バイパス手術」が効果的で、これまでの執刀数は210例に上る。
2年前、富大の脳神経外科学教授に就任した。地縁はなかったが、趣味の登山を通じ、北アルプスに抱かれた富山には愛着があった。くしくも、前身である富山医薬大の高久晃元学長は、モヤモヤ病の命名者の一人でもある。「富大をモヤモヤ病の治療、研究の拠点にしていきたい」。無症状のモヤモヤ病患者を対象にした全国的な登録事業「AMORE」を主導し、患者の予後を追跡して、脳疾患の発症との関連性などを研究する。
出身の北海道大では「匠(たくみ)の手を持つ脳外科医」とも評される上山博康医師の手ほどきを受けた。「決しておごらず、偉ぶらない。人を引き付ける人間的な魅力にあふれている。絶対に追い越せない存在です」。真摯(しんし)に患者と向き合う上山医師の姿は、今でも心のよりどころだ。
医局では、年齢に関係なく、気軽に意見を出し合えるフラットな人間関係づくりを心掛ける。関連病院も含め、若手医師に手術の技を指導する機会を設け、脳外科医の育成にも力を注ぐ。かつて自身が導かれたように、脳外科医としての誇りとやりがいを次の世代に伝えていく決意だ。

くろだ・さとし 北海道旭川市出身。北 海道大医学部医学科卒。北海道大病院診療准教授などを経て、2012年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。
黒田 敏