1.造血幹細胞移植とは
1)骨髄移植
骨髄中に全ての血液細胞の源となる「造血幹細胞」が存在することが知られ、これを骨髄機能が低下した患者に輸注する骨髄移植は70年代から臨床応用が始まった。免疫抑制剤や感染管理などの支持療法や、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) などのサイトカインによる造血刺激などの技術が確立してきた。血縁者ドナーが得られない患者のために英国で74年に骨髄ドナーバンクが設立され、わが国でも1991年日本骨髄バンクが発足し普及した。
2)末梢血幹細胞移植
末梢血中にも造血幹細胞が増加する事が知られ、化学療法やG-CSF投与により末梢血に動員しされた幹細胞を採取し、
骨髄と同様に輸注する方法が末梢血幹細胞移植である。
2.造血幹細胞移植の種類
造血幹細胞移植には自家Autologousおよび同種Allogeneicがある。自家移植とは患者自身の造血幹細胞を凍結保存して、
治療後に再輸注するものをいう。同種移植とは血縁者または非血縁者から提供された造血幹細胞を輸注するものをいう。
供給源によって骨髄・末梢血幹細胞・臍帯血移植がある。
3.今後の課題
当科では(血縁者間)同種骨髄/末梢血幹細胞移植を準備しており、スタッフの教育などを進め、2003年5月に倫理委員会の承認を得た。
今後は適応ある患者に対して一般診療として同種移植を行う予定である。
そのために意欲的なスタッフを募集している。また移植症例数が増えると骨髄バンク登録施設に認められ、バンクからの(非血縁者間)
同種末梢血幹細胞移植が行え、更には臍帯血移植、
ミニ移植などの新たな移植の技術を樹立することにより、より多くの患者に安全で有効な治療を提供することが期待される。
腰が痛い…。皆様どこの科を受診されますか?普通は整形外科を受診されることが多いと思います。
腰痛は原因がわからないことが85%にものぼるとの報告(厚生労働省班調査)もありますが、がんからくるものも一部あります。
代表的なものはすい臓がんや、前立腺がんですが、血液疾患でも腰痛で発症するものがあります。それが多発性骨髄腫です。
図に示す4大症状のうち、
約半数の患者さんが骨の痛みで発症する血液がんです。
難治性の病気であり、かつてはこの病気になってしまうともって3年ですということをしばし患者さんにお伝えしました。
しかし、図2に示します様にここ10数年で次々と新しい薬剤が出現し、血液のがんの中では目覚しい治療の進歩が得られている疾患でもあります。
現在発症からの生存の中央値(全ての患者さんの生存期間を並べて真ん中にくる数字)が6年を超えてきています。
当院でも発症後10年を超える患者さんが増えてきており、将来的には完治を望める可能性も出て参りました。
ただ、やみくもに治療をすれば良いというものでもありません。図3に示します様にこの病気は年配の方に多い疾患です。
どうしても状態の良くない患者さんに強い治療を行うと逆にさまざまな障害が出ることもしばし経験します。
当院では患者さん個人にあった治療を選択(2種類のお薬がいいのか、それとも3種類のお薬がいいのか等)し、
長く生存して頂きたいのはもちろんのこと、その中でも患者さんらしい生活が営める期間をより長くとれるよう治療のお手伝いをして参ります。
富山県の中でも多くの患者さんの治療を経験している担当医が専門外来にて治療に当たらせて頂きます。
また、多くの臨床試験などに参加し、更なる治療成績の向上に向け、全国の施設と連携し最新の治療を提供して参ります。
腰痛だけでなく、倦怠感(だるさ)など他の症状とともなう方など、是非かかりつけの先生を介して紹介頂ければと存じます。
担当医:和田暁法
悪性リンパ腫について
悪性リンパ腫は血液のがんです。全身のどこにでも発生し、発生した場所によって様々な症状を引き起こします。気になる症状があれば病院を受診することが重要です。最初は色々な科で精密検査が行われますが、生検と呼ばれる組織検査で悪性リンパ腫と診断された後は、血液内科が担当することになります。次に、病気がどの程度広がっているのか調べる検査を行います。その結果と、悪性リンパ腫の中でもどのタイプなのかによって治療法が決まります。治療の基本は抗がん剤療法ですが、放射線療法が組み合わされることもあります。現在は吐き気止めが良くなって、治療はずいぶん楽になりました。外来で抗がん剤治療を行うことも可能です。
悪性リンパ腫は血液のがん
悪性リンパ腫とはどんな病気?
例えば、肺の細胞ががんになれば肺で増えて肺がんになりますし、胃の細胞ががんになれば胃で増えて胃がんになります。そのような意味では、悪性リンパ腫はリンパ球のがんです。リンパ球はそもそも血液細胞ですから、悪性リンパ腫は血液のがんのひとつとして分類されます。血液のがんと言えば白血病を連想する方も多いと思いますが、悪性リンパ腫も血液のがんなのです。それで、悪性リンパ種も血液内科が担当することになります。
悪性リンパ腫の原因は?
基本的には原因不明ですが、一部の悪性リンパ腫では、EBウイルスやHTLV-1ウイルス、そしてヘリコバクター・ピロリなど、ウイルスや細菌との関連が知られています。また、関節リウマチなどの膠原病に使われるメトトレキサートというお薬が原因になることもあります。なお、悪性リンパ腫がご家族に感染したり、悪性リンパ腫になりやすい体質が遺伝することはありません。
気になる症状があれば病院へ
悪性リンパ腫の症状は?
そもそもリンパ球は血液の細胞ですから、血液の流れに乗って体じゅうのすみずみに回っています。ですから、リンパ球のがんである悪性リンパ腫は、体じゅうのあらゆる場所に発生します。悪性リンパ腫の細胞が首のリンパ節で増えると首のしこりとして自覚しますし、おなかの中のリンパ節で増えると腹囲の増加として自覚されます。脳で増えると認知症のような症状がでることもありますし、胃で増えると胃カメラ検査で発見されることもあります。微熱が続くこともありますし、寝汗や体重減少を自覚することもあります。発生する場所が様々ですから、症状も様々なのです。
早期発見する方法は?
胃がんや肺がんには早期発見のための検診がありますが、悪性リンパ腫の検診というのは聞いたことがないと思います。全身のあらゆる場所に発生しますから、悪性リンパ腫を確実に早期発見する方法はありません。首のしこりのように、体の表面から触ってわかる症状があれば早期に気づくこともありますが、お腹の奥深くに発生した悪性リンパ腫を自分で気づくことは困難です。しかし最近では自覚症状がないうちに、人間ドックの腹部エコーや胃カメラ、大腸カメラで発見されることもあります。
どのようにして発見される?
気になる症状があれば、まずは病院にかかることが重要です。自分が悪性リンパ腫かもしれないと思って血液内科にかかる人はいません。首にしこりがあれば耳鼻科を、微熱が続けば総合内科を受診することになります。それぞれの科で様々な精密検査が行われ、腫瘍があれば生検と呼ばれる病変の採取が行われます。採取された病変は病理医が顕微鏡検査で診断を下します。悪性リンパ腫という診断になれば、血液内科を紹介されます。悪性リンパ腫と診断された患者さんのほとんどは、血液内科へ紹介されるまで、いくつかの病院、いくつかの科を受診して、たくさんの検査を受けているのが実際です(▼下図)。
検査はどのように進められる?
血液内科に紹介されてから行われる検査は、病気の広がりを調べることが目的となります。病気の広がりによって、治療の方針が異なるからです。CT検査やPET検査などの画像診断は重要です。その他には、「マルク」と呼ばれている骨髄の検査が行われます。悪性リンパ腫の細胞は骨髄に入り込むことがありますので、病気の広がりを調べる上で重要な検査のひとつです。これらの検査を外来で行なって待機的に入院して頂くことが多いのですが、進行が早くて生命に危険な兆候が出ているような場合は緊急で入院して頂くこともあります。
治療の基本は抗がん剤
治療はどうする?
悪性リンパ腫の治療において手術という選択肢は一般的ではありません。悪性リンパ腫と同じ血液のがんである白血病に手術が行われないのと同じです。腫れているリンパ節を手術で取ったとしても、悪性リンパ腫の細胞はすでに血液の流れに乗って体じゅうに広がって、目に見えない転移があると考えられています。ですから、治療の基本は抗がん剤になります。点滴で血液の中へ投与された抗がん剤が、大きく腫れたリンパ節や目に見えない転移まで退治してくれることを期待しています。抗がん剤治療に放射線治療が組み合わされることがあります。
抗がん剤治療の種類は?
悪性リンパ腫は様々なタイプに分類され、それぞれのタイプで治療法が異なります。代表的なものとして、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とろ胞リンパ腫についてお話します。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は月単位で進行する中悪性度のタイプですから、のんびりしていることはできません。検査が終了したら治療が開始されます。抗がん剤治療の基本はR-CHOP療法になります。これは、リツキサン®、エンドキサン®、アドリアシン®、オンコビン®という抗がん剤点滴と、プレドニン®という内服ホルモン剤の組み合わせです。点滴は2日間、内服は5日間で、これを3週サイクルで繰り返します。病変が全身に広がっている場合は、この治療法を6回から8回繰り返します。広がっていない場合は3回行なって、放射線療法を組み合わせることが多いです。一方、ろ胞リンパ腫は年単位で進行する低悪性度のタイプですから、あわてて治療することはなく、病変が全身に広がっていても経過観察する場合があります。病気がさらに進行すると抗がん剤治療を開始します。これまでは上述したR-CHOP療法が行われていましたが、最近ではトレアキシン®が選択されることも多いです。これと組み合わせになるのはリツキサン®でしたが、2018年にガザイバ®が登場してからは、トレアキシン®とガザイバ®の組み合わせも選択肢になりました。
抗がん剤治療は副作用が怖い?
抗がん剤と言ってイメージされる代表的な副作用は吐き気だと思います。ただ、今は吐き気止めが良くなっているので、吐き気で苦しむことはほとんどありません。もう一つの大きな問題は脱毛です。特に女性の患者さんにとって髪が抜けるというのはショックなことですが、残念ながらR-CHOP療法で脱毛は避け難いのです。ただ治療が終わればまた生えてきますので、それまでは医療用の帽子やウイッグで対応してもらいます。一方で、上述のトレアキシン®には脱毛の副作用がありません。第1回目の抗がん剤治療は基本的に入院で行いますが、大きな副作用がなければ、第2回目以降を外来で行うことも可能です。
抗がん剤治療はよく効く?
悪性リンパ腫に対する抗がん剤治療は基本的に非常によく効きます。「抗がん剤は効かない」とか「抗がん剤は恐ろしい副作用がある」とか、週刊誌などの情報を鵜呑みにしている患者さんがいます。間違った先入観を捨てて、まずはこうすべきと決まっていることをしっかり行うことが大切です。また、「もう十分に生きたのでこのまま死なせてくれ」と言う、気の早い高齢の患者さんもいます。もちろん、高齢の患者さんでは抗がん剤治療のリクスは増しますが、抗がん剤の種類や量を工夫すれば治療は可能ですから、最初から諦めたりする必要はないと思います。
免疫療法の可能性
免疫療法の適応は?
本庶 佑先生が2018年にノーベル賞を受賞して、オプジーボ®による免疫療法が改めて注目を集めました。しかし、オプジーボは一般的な悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)には適応がなく、適応があるのはごく限られた悪性リンパ腫(再発難治のホジキンリンパ腫)だけです。一方で、患者さんから採取した免疫細胞(T細胞)に遺伝子を導入し、リンパ腫細胞のCD19を目印として攻撃するように加工したCAR-T細胞を用いる免疫療法が、再発難治の悪性リンパ腫に効果があると確認されました。この治療法は近々日本でも可能になりますから、大きな期待を寄せています。
悪性リンパ腫についてこれだけは知って欲しいポイント
●悪性リンパ腫は血液のがんで、全身のどこにでも発生し、発生した場所によって様々な症状を引き起こします。
●様々な科で精密検査が行われますが、悪性リンパ腫と診断された後は血液内科が担当します。
●悪性リンパ腫の中でもどのタイプなのか、そして病気の広がりによって治療法が決まります。
●治療の基本は抗がん剤療法ですが、放射線療法が組み合わされることもあります。
●吐き気どめが良くなって、抗がん剤治療はずいぶん楽になりました。外来で行うことも可能です。