子どもたちの未来をつなぐ医療(2/3)

医者として、 当たり前のことを当たり前にやるために。

海外に行くと、価値観が変わる。

聞き手 外国の病院との連携は積極的に進めていく方が良いと思われますか。

芳村 やったほうがいいとは思います。まず、自分のためになります。あとは、どこの業界でもそうだと思いますけど、その世界のよその国の現状に触れるというのはすごく良いことだと思います。考え方や人間が変わります。それは留学なんかもそうですし、例えば学生は、たった4週間実習に行かせるだけで考え方や見方が全然変わってくるし、それに何より日本語の通じないところで4週間サバイブしてきたというだけですごく自信になりますよね。それはどんなことでもそうだと思います。外科手術というのは自分がいる病院でやっている分にはいいですけど、よそでやるというのはすごく難しいです。ましてや外国に行くと、ふだんは関西弁で手術しているのに、いきなり英語で手術してくれと言われるとかなり大変です。

聞き手 やっぱり機器も違うものでしょうか。

芳村 機械も大分違いますね。そういう意味ではベトナムなんかはまだまだ恵まれてないですね。その辺は兵庫県というか、我々の方からかなりそういった援助をしたんです。兵庫こども病院のほうで募って。それはやっぱり機械も全然使いものにならないようなものばかりだったので、以前と比べるとかなり良くはなりましたけど、まだまだ我々が使っているような道具と比べたら、よくあの環境でやっているなと思います。ただ、機械に頼らないから上手なんですけどね。技術はどんどん上がっていくでしょうね。

第1外科診療部門 教授 芳村直樹

 

いちばん大事な命をこぼさない。

聞き手 先生、日常的なお話になるんですけれども、日々の医療を提供される中で何か大事にしてらっしゃることはありますでしょうか。

芳村 そんな大げさなことはありません。もうとにかく、本当に(命を)こぼさないようにしてます。やっぱりどうしても取りこぼしているのはあるんですけど、特に先天性心疾患というのは特殊な領域です。同じ病名がついても状態は全然違うんです。その患者さんの病名が決まったらそれでマニュアルどおりにいくというものでは全然ないので、まず治療方針を決めますが、その治療方針が正しく決まったかどうかで8割方勝負は決まってしまっています。もちろん僕ひとりで方針を決めることはなくて、外科と小児科といろんなチームがその情報を皆で出し合って検討します。忙しくて、患者さんがたくさんおられる中で、例えばちょっと方針を間違ったりすることがたまにあったとしたら、状況は徐々に悪くなるし、一つ間違ったらそれで患者さんを失うことになることもあるので、月並みな言い方をしたら、とにかく一人ひとりの患者さんを大切にするという、それだけのことなんですけど、それはつまり(命を)取りこぼさないようにしないといけないということです。

聞き手 最初の方針決定がとても大切なんですね。

芳村 正しい方針で手術をしなかったら、どれだけ上手な手術しても絶対だめです。
そして、この領域は今はかなり進歩しています。10年ぐらい前は重い病気で死んでも仕方がないという病状の子が多かったと思うんですけど、今はもうほとんどの子どもが助かる時代なんです。それでも我々のところでも年に2人か3人は命を落としてしまいます。そのときは、自分の判断を振り返ったりして落ち込みます。医者をやめてしまおうかと思うこともあります。先天性の病気というのは、物理的な病気で、薬で治る病気はないので、全て手術で治す病気ばかりですから。だからこそ、方針の決定は日常に流されてはいけないんです。

生きてさえいれば、治療法が見つかるかもしれない。

聞き手 先生としてどういうところを目指していらっしゃいますか。この先にあるものなど。

芳村 今までやってきたことをこれからもやっていくだけなんですが。ただ、おもしろいことに、我々の領域というのは、本当についこの間までできなかったことが簡単にできるようになったりするんですね。去年の今ごろはもう死ぬしかなかったような子どもでも、今では助かるようになっていたりします。

聞き手 それはすごいですね。

芳村 何かちょっとしたことや、新しいことが一つ出てくるだけで全然変わってくる。

聞き手 それは機械とか、研究が要因でしょうか。

芳村 ちょっとしたやり方や技術がどこかの施設から、こういうふうにやったらうまいこといくよ、みたいなことがポッと出てきたり、あるいは新しい薬ですね。今だったら肺高血圧の薬がどんどんとすごい勢いで開発されています。先天性心疾患というのは心臓と肺とがすごく密接にかかわるんで、今までは肺が悪くてもう治療ができなかった子が、肺の治療ができる薬がたくさん出てきたことによって、今また新たな展開を迎えていますね。だから変な話、とにかく死なせないことが大切です。この子はどう考えても元気になるとは思えなくても、とにかく今は死なせない。生きてさえいれば、アッという間に何かガラっと変わったりすることがあるんです。それはあるんです。全然助からなかった病気が、今は富山で最終手術までちゃんと行き着くようになっている。そういうこともあるし、数年前までは全然うまくいかなかってとても難しい手術があったんですけど、兵庫と富山のグループでちょっとやり方を変えたら状況がガラッと変わって、もうその病気では死なないようになりました。