がん細胞はもともとは我々ヒトの細胞です。それゆえ、薬物でがん細胞を攻撃しようとすると、正常な細胞にまでダメージを与える可能性が高く、なかなか治療に難渋します。そんな中、最近は有望な抗がん薬物が開発されてきましたので、なるべくわかりやすく解説します。

がん細胞は細胞の設計図である遺伝子(DNA)に異常が起こり、制御不能の増殖を起こしていることがわかってきました。このためがん細胞の遺伝子を調べ、どこに問題があるのかということを調べることで、治療に応用できることが考えられます。近年ある種のがん細胞では特徴的な遺伝子の異常(遺伝子変異)があることがわかり、その異常な遺伝子から作られるたんぱく質を抑える薬剤が開発され、劇的な治療効果が得られるようになりました。

血液がんの1つである慢性骨髄性白血病(CMLとも呼ばれます)は抗がん薬物にいったんは反応しますが、すぐに再発をきたす治療抵抗性の厄介な病気でした。しかし、その遺伝子を調べてみるとほとんどの症例でBcr-Ablという異常蛋白が作られており、それが原因で増殖が続いていることがわかりました。そこで、このBcr-Ablを抑える薬剤であるイマチニブをを投与すると、ものの見事に白血病細胞が消失したのです。この発見のおかげで、現在ではCMLは長期生存可能な病気となりました。