早期アルツハイマー病(AD)治療外来について
早期アルツハイマー病(AD)治療外来の流れ
1. 抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)について
認知症の中で最も多いタイプであるアルツハイマー病(AD)は脳内に蓄積するアミロイドβという異常なたんぱく質が病気の進行に関与していると考えられています。抗アミロイドβ抗体薬はアミロイドβを減少させることを目的とした新しい治療薬であり、早期アルツハイマー病の進行を抑制し、認知機能と日常生活機能の低下を遅らせる効果が認められています。令和5年12月20日に「レケンビ®点滴静注」(一般名:レカネマブ)が発売され、令和6年11月26日には2種類目の「ケサンラ®点滴静注」(一般名:ドナネマブ)が使用可能となりました。
<発表資料リンク>
https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202374.html
https://mediaroom.lilly.com/PDFFiles/2024/24-26_com.jp.pdf
2.抗アミロイドβ抗体薬の適応について
本剤は高額薬であり、厚労省が提示する「最適使用推進ガイドライン」に則って治療を進めます。ガイドラインではこの治療の対象者は「アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症」に限定されています。軽度認知障害(認知症予備群)から初期アルツハイマー型認知症の患者さんで、レカネマブについてはMMSE(簡易認知機能検査)が22~30点、ドナネマブについてはMMSEが20~28点であることが要件とされています。
本剤はアルツハイマー病の進行を抑制する効果のある薬であり、根治を目的とした薬ではありません。失われた記憶を取り戻す効能や認知機能が改善する効果はないことをご理解ください。
3.抗アミロイドβ抗体薬治療の適応にならない場合について
本剤の投与の有効性が期待できる状態であるかどうかを判定するため、投与前に当院で診察・検査を受けていただきます(下記をご参照ください)。その結果、本剤の有効性が期待できないと判定された場合(もの忘れの原因がアルツハイマー病ではない、原因がアルツハイマー病であっても認知症の程度が中等度以上など)や、脳MRIにおいて治療による副作用のリスクが高い特有の所見を認めた場合、禁忌に当たる既往歴がある場合などは投与できませんのでご了承ください。
4.当院での診療の流れ:抗アミロイドβ抗体薬投与まで
当院早期AD治療外来はかかりつけ医からの紹介による完全予約制です。経過などからアルツハイマー病が疑われ、かかりつけ医で行ったMMSEが20点以上の方が対象となります。予約は当院地域連携を介して行っていただきます。
正確な診断と治療可否の判定にはこれまでの生活歴、治療歴などが重要ですので、初診時にはかかりつけ医からの診療情報提供書(MMSE結果などを含む)、ご家族のお付き添いは必須です。早期AD治療外来は月曜日・水曜日の午後に行っています。初診時とその後の診察・検査(神経心理検査、血液検査、心電図検査、脳MRI、脳血流シンチグラフィー、アミロイドPETを数日に分けて実施します)の流れは下図の通りです。
アミロイドβの蓄積を証明する検査としてはアミロイドPETという核医学検査と髄液検査がありますが、当院では侵襲の低いアミロイドPETを優先してお勧めすることとしております。初診時の診察・検査とその後の全ての精密検査の結果を総合的に検討し、抗アミロイドβ抗体薬投与の対象に該当するか否かを説明させていただきます。
5.当院での診療の流れ:抗アミロイドβ抗体薬投与開始後
治療適応があると判定され、投与を希望された方への投与は、初回のみ短期入院して頂き、点滴注射を行います(副反応の発現を注意深く観察するためです)。
2回目以降は専用に整備された当院外来で、レカネマブは2週毎に点滴注射(1回の投与時間は約1時間)、ドナネマブは4週毎に点滴注射(1回の投与時間は約30分)を行います。なお、投与開始後は脳の腫れや出血などの副反応が生じる可能性があるため、定期的な脳MRI検査が必要です。最大の投与期間は原則として18カ月までになります。6ヵ月以降は当院あるいは関連病院で治療を継続します。
6.費用について
本剤の投与は医療保険が適用されます。年間で約300万円(+MRIなどの検査費用・診察費用等がかかります)とされていますが、それぞれの負担割合に応じた窓口負担金で済むことに加え、高額療養費制度も利用できます。負担金額は各種条件によって異なります。