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国立大学法人富山大学附属病院における適切な意思決定支援に関する指針

国立大学法人富山大学附属病院における適切な意思決定支援に関する指針

富山大学附属病院
2025年3月19日制定

I.序文

 人生の最終段階における治療の開始・不開始及び中止等の医療のあり方の問題は、従来から医療現場で重要な課題となってきました。厚生労働省においても、人生の最終段階における医療のあり⽅について、平成19年(2007年)にガイドラインが策定され、平成30年(2018年)には、近年の⾼齢多死社会の進行に伴う在宅や施設における療養や看取りの需要の増大、地域包括ケアシステムの構築に対応する必要性から、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: 以下ACPとする)の概念を盛り込み、医療・介護の現場における普及を図る⽬的で改訂されています。このような社会的な流れを受け、本院では、厚⽣労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等に基づき、「国立大学法人富山大学附属病院における適切な意思決定⽀援に関する指針」を作成しました。

Ⅱ.基本方針

 人生の最終段階を迎える患者・家族等と医師・看護師・ソーシャルワーカー等で構成された医療・ケアチームが、患者にとって最善の医療・ケアを提供するため、患者・家族等に対し適切な説明と話し合いを行った上、患者本人の意思決定を基本とした医療・ケアを提供します。

Ⅲ.人生の最終段階の考え方 

  • 1.人生の最終段階:本指針では、以下の状況を指すものとします。
  •  (1) 癌などの悪性新生物に起因して、根治不能とされた状態、または予後が数か月程度と予測される状態
  •  (2) 慢性疾患の自然経過等による病状の進行に伴う、予後不良な状態
  •  (3) 既往疾患による後遺障害等に起因する合併症などによる、予後不良な状態
  •  (4) 治療の継続による改善が期待できない急性重症患者 など
  • 2.DNAR(Do Not Attempt Resuscitation):原疾患などに伴い想定されていた心停止が発生した場合に、「効果が期待できない蘇生処置は試みない」ことです。その対象は心停止あるいは心停止の危機に直面している場面に限定され、部分的な DNAR 指示(昇圧はするが挿管はしない等)は、一連の蘇生行為として矛盾が生じるので、行いません。また、DNAR 指示の存在は、原疾患以外に起因する心停止や蘇生により救命が期待できる状況における蘇生の実施を妨げるものではなく、予期されていなかった病態の出現による急変や原疾患と無関係の窒息などの場合にも蘇生を行うこととします。 DNAR 指示の存在と他の治療(抗菌薬や循環作動薬)の開始・不開始も無関係であり、拡大解釈は行いません。終末期等における治療方針と治療・ケア行為の開始・不開始・中止などについての方針は、DNAR とは別に、ACP(アドバンス・ケア・プランニング、 Advance Care Planning)を通して患者・家族との合意を形成します。
  • 3.ACP(アドバンス・ケア・プランニング、Advance Care Planning):医師等からの適切な情報提供と、多職種からなる医療・ケアチームと患者・家族の十分な協議に基づいて、患者本人の意思決定を基本に合意を形成し、人生の最終段階における医療・ケアを進める取組(人生会議)のことです。医療・ケアチームは、疼痛やその他の不快な症状を緩和し、患者・家族等の精神的・社会的な援助を含めた総合的な医療・ケアを目指します。医療・ケア行為の開始・不開始、 医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止などについては、医学的妥当性と適切性を基に医療・ケアチームが慎重に判断した上で、患者・家族を含めた多職種での協議を行い、患者の人権を最大限に尊重することが必要であると考えます。

Ⅳ.人生の最終段階における医療・ケアの在り方

  • 1. 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける患者本人が、多職種にて構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、患者本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めていきます。
  • 2. 患者本人の意思は変化しうるものであることを踏まえて、患者本人が⾃らの意思をその都度示し、伝えられるような⽀援を医療・ケアチームで行い、患者本人との話し合いを繰り返し行います。
  • 3. 患者本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、患者本人との話し合いを繰り返し行います。この話し合いに先立ち、患者本⼈は特定の家族等を⾃らの意思を推定する者(代理意思決定者)として前もって定めておくことを⽀援します。
  • 4. 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア⾏為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中⽌等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断します。
  • 5. 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・療養場の選択を含むケアを⾏います。
  • 6. 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本指針では対象としません。

Ⅴ.人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定について

 人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次のものとします。

  • 1. 患者本人の意思確認ができる場合
  •  (1) 医療・ケアの方針決定は、患者本人の状態に応じた専⾨的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者より適切な情報の提供と説明を行い、そのうえで、患者本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえ、患者本人による意思決定を基本とし、多職種の医療・介護従事者にて構成される医療・ケアチームとして方針の決定を⾏います。
  •  (2) 時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて患者本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ患者本⼈が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような⽀援を行います。この際、患者本人が⾃らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めた話し合いを繰り返し行っていきます。
  •  (3) このプロセスにおいて話し合った内容については、都度、⽂書にまとめ、診療録に記載します。
  • 2. 患者本人の意思確認ができない場合
  •  患者本⼈の意思確認ができない場合には、下記のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重に判断します。
  •  (1) 家族等が患者本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者本⼈にとっての最善の方針をとることを基本とします。
  •  (2) 家族等が患者本人の意思を推定できない場合には、患者本人にとって何が最善であるかについて、患者本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、患者本⼈にとっての最善の方針をとることを基本とします。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じ、このプロセスを繰り返し行っていきます。
  •  (3)家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、患者本⼈にとって最善の方針をとることを基本とします。
  •  (4)このプロセスにおいて話し合った内容については、都度、文書にまとめ、診療録に記載します。
  • 3. 複数の専門スタッフからなる話し合いの場の設置
  •  前項1及び2の場合における方針の決定に際し、以下(1)~(3)の場合などにおいては、複数の専門スタッフからなる話し合いの場を別途設置し、方針等についての検討及び助⾔を行います。
  •  (1) 医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合
  •  (2) 患者本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容について合意が得られない場合
  •  (3)家族等の中で意⾒がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
  • 4. 認知症等で患者自らが意思決定をすることが困難な場合
  •   障害者や認知症等で、患者自らが意思決定をすることが困難な場合は、厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」を参考に、できる限り患者本人の意思を尊重し反映した意思決定を、家族及び関係者、医療・ケアチームが関与して支援します。
  • 5.身寄りがない患者の場合
  •   身寄りがない患者における医療・ケアの方針についての決定プロセスは、本人の判断能力の程度や入院費用等の資力の有無、信頼できる関係者の有無等により状況が異なるため、介護・福祉サービスや行政の関わり等を利用して、患者本人の意思を尊重しつつ厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を参考に、医療・ケアチームが関与してその決定を支援します。

Ⅵ. おわりに

 意思決定⽀援は、疾患を問わず重要な医療・ケアの⼀部です。本院は希望される⽅に適切な⽀援が行われるよう努めてまいります。

 

 

【参考資料】

  • 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン:厚⽣労働省/平成30年(2018年)3月改訂
  • 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編:人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会/平成30年(2018年)3月改訂
  • 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン:厚生労働省/平成30年(2018年)6月
  • 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン:研究代表者 山縣然太朗