一般の方へ

臨床研究・治験とは

はじめに

薬を作るのは製薬会社の仕事です。研究に研究を重ね、ひとつの新薬が生まれ患者さんの手に渡るまでには、 10年以上の歳月と100億円以上の開発経費が必要だといわれています。たくさんの薬の卵(天然物や化合物) がふるいにかけられ、最後に残るのはごくわずかで、その確率は1万分の1ともいわれています。 はじめに薬がどのように誕生するかその過程をご説明いたします。

新しい薬が開発されるまでの流れ

新しい薬が世の中で使われるようになるまでには、たくさんの研究が行われます。 まず、薬の候補となる物質を見つけ、動物や細胞などで有効性や安全性などが十分に検討されます。 これらの研究で得られた情報をもとに、薬となる可能性のあるものだけが、厳重な管理のもとで、 実際にヒトに対する有効性や安全性などについて調べられます。 ヒトで薬の有効性や安全性について調べることを一般に「臨床試験」といいますが、 薬として国(厚生労働省)から承認してもらうためのデータを集める臨床試験は、特に「治験」と呼ばれています。 また、国(厚生労働省)の承認を受けた後、薬の有効性や安全性を引き続き調べるために試験が行われる場合があります。 これを「製造販売後臨床試験」といいます。

人体実験じゃないの?

治験は人を対象にしていますので、国(厚生労働省)が定めたルールに従い、患者さんの人権や安全を守り、 適正に実施されるようになっています。

  • 治験の届け出制度: 製薬会社が治験を行うときは、その計画の内容を国(厚生労働省)に届け出なければなりません。 届け出を受けた治験は内容に問題がないかなどの調査を受けます。
  • 製薬会社から医療機関への治験依頼: 調査に問題がなければ、製薬会社から医療機関へ治験を依頼します。治験を行う医療機関は、 専門の医師をはじめ治験コーディネーターなどのスタッフや、十分な設備が整っていなければなりません。
  • 治験審査委員会による審査: 医療機関では、治験の開始前から終了まで、治験の実施、継続についての倫理的、 科学的及び医学的妥当性についての検討が行われます。
  • インフォームド・コンセント: 試験の内容、今までの試験の結果、副作用等について詳しく書かれた同意説明文書をもとに、 担当医師などが治験参加を希望する人に説明を行います。文書により同意した人のみが治験に参加します。
  • 重大な副作用の国(厚生労働省)への報告: 治験中に起きた重大な副作用は、医療機関から製薬会社に連絡され、さらに製薬会社から国(厚生労働省)へ報告されます。 治験に参加している人の安全を守るために、治験の見直しが行われる場合があります。

どんな試験方法があるの?

大きく分けて2つあります。ひとつはオープン試験、もうひとつは二重盲検試験です。

  • オープン試験: 例えば医師が治験薬Aを処方し、患者さんに服薬してもらうというように、 医師にも患者さんにも中身がわかるようになっている試験をいいます。
  • 二重盲検試験: 例えば治験薬Aと現在市販されている薬Bとで効果を比較する場合で、患者さんにも医師にも治験薬Aが 処方されているのか、市販薬Bが処方されているのか、わからないように工夫されている試験をいいます。 これは患者さんや医師の先入観(この薬は新しい薬なのでいままでの薬よりきっと効果があるはずだ!) を排除して、より客観的な評価をするための試験になります。
  • プラセボとプラセボ効果: 薬効を持たない見た目は薬と同じものをプラセボといいます。 患者さんの中には、プラセボを飲んでもらった場合でも症状が良くなってしまわれる方がいらっしゃいます。 これをプラセボ効果といいます。
    • 例えば10人の患者さんに治験薬Aを飲んでもらい、5人の症状が良くなりました。 このままだと半数の患者さんに効果のある薬ということになります。しかし、もう10人の患者さんにプラセボを飲んでもらったところ、 5人の症状が良くなりました。 治験薬と薬効のないプラセボが同等の効果であるということは、この治験薬には薬としての効果が認められないということになります。
    • このように、プラセボを対照薬とした二重盲検比較試験を行うことで、より客観的な視点で治験薬を評価し、 よりよい治療薬の開発ができるような仕組みになっています。

試験の種類は?

試験の種類としては次のようなものがあり、それぞれオープン試験や二重盲検試験と組み合わせて行っています。

  • 比較試験: 治験薬を飲むグループと対照薬を飲むグループに分けて結果を評価します。
  • 漸増試験: 目的とする効果が得られるまで、用量を順次あげながら結果を評価します。
  • 用量・反応(用量設定)試験: 複数の用量の治験薬を用い、治験薬の用量と効果の相関性をみる試験です。
  • 長期試験: 試験の最終段階で半年から1年間の有効性や安全性をみる試験です。

参加したいと思っているのですが少し心配です。

  • 副作用のない薬はない: 薬には体の生理的な機能にある影響を与えることにより、病気の症状を改善したり、病気の進行をおさえるもの、 抗生物質のように菌に直接作用して、菌が消滅することにより症状が改善するものなどがあります。 病気の部分だけに薬が効いてくれればよいのですが、正常な部分にも影響を与えます。 これがいわゆる副作用とよばれるものです。薬を開発する場合は、病気の症状を改善する効果が大きく、 副作用の発生が少ないところの用量を設定しますが、副作用が全くないわけではありません。
  • より慎重な診療: 現在市販されている薬にも副作用はあります。医師はそのことを十分理解した上で治療を行っています。 まして治験においては、もっと慎重に診察を行い、検査値等にも十分に気をつけて診療にあたります。
  • 補償制度: もし副作用が起きて治療が必要になった場合には、その治療費等を治験を依頼した製薬会社が支払ってくれる補償制度があります。 (治験の内容や種類、依頼者により補償の内容が異なる場合があります。)
  • 費用負担: 治験に参加することによって余計に費用がかかることはありません。また保険外併用療養費制度という国の制度があり、 治験期間中のすべての検査・画像診断料と治験薬と同じ薬効を持つ薬の費用については治験を依頼した製薬会社へ請求されます。 そのため治療費が安くなる場合もあります。また、被験者負担軽減費として、治験のための外来通院1回に対して¥7000の支給があります。 (交通費として解釈してください。)

治験に参加する場合の注意事項

あなたがもし病院で「治験に参加してください」とお願いされた場合、または自分から治験に参加したいと思った場合、 以下のことに注意してください。

  • 担当医師の説明を聞いてください。その前または後に治験コーディネーターより補助説明があります。
  • 試験の内容、今までの試験の結果、副作用等について詳しく書かれた同意説明文書がありますので、 よく読んでください。 病名、専門用語など、わからないところは担当医師や治験コーディネーターに納得いくまで確認してください。
  • その場でご返事いただかなくてもかもいません。ご自宅で、もう一度考えてからご返事いただいてかまいません。
  • 二重盲検試験の場合は治験薬があたらない場合(プラセボの場合)もありますので、試験方法についてもご確認ください。
  • 補償内容は治験により異なる場合がありますので、ご確認ください。
  • 同意書への署名は患者さんご自身でお書きください。(代諾が可能な治験の場合は代諾者でも可)

新薬開発において患者さんの協力は不可欠です。今後のよりよい治療のため、また次世代のためにご協力をお願いする場合もありますが、 あくまでも自由意志による参加で、強制ではありません。 断ったからといって不利益を受けたり、治療を断られることは全くありません。患者さんご自身でご判断ください。 同意した後でも、いつでもやめる事が出来ますので、いつでも担当医師にご相談ください。
ご理解とご協力をお願い申し上げます。