研究テーマ

臨床薬剤学研究室(附属病院薬剤部)希少疾患患者の希望となる革新的な治療薬開発を目指して

 希少疾患用医薬品(いわゆるオーファンドラッグ)は、医療上の必要性が高いにもかかわらず、治療対象者が5万人以下と患者数が少なく、製薬企業における治療薬の研究開発が遅れがちです。私たちが着目しているリソソーム病は、リソソームに局在する酸性加水分解酵素の遺伝的活性低下に起因した糖脂質の蓄積を特徴とする難病です。
 現在、リソソーム病に対する治療法として酵素製剤を用いた補充療法が実用化されていますが、高濃度の精製酵素を長期にわたり点滴静注することから抗体産生による拒絶や副作用の問題が指摘されています。また酵素製剤単独では予後に関係する心臓や腎臓、中枢神経系への効果は期待できず、あくまでも予防的な効果にとどまることも報告されています。
 近年、「酵素補充療法」を支援する新たな方策として、酵素安定化作用を持つ低分子化合物を用いた「シャペロン療法」が実用化され、2018年5月にファブリー病治療剤「ガラフォルド」の発売が日本でも始まりました。「シャペロン療法」は正しい折りたたみ構造が取れない変異酵素に対し、特異的に結合できる低分子化合物を用いることによりフォールディングを促し、通常のプロセシング経路への移行を手助けするという優れた治療戦略です。
 私たちの研究室では Structure-Based Drug Design(SBDD: 標的蛋白質の立体構造に基づいた医薬分子設計)、糖質生化学、創薬化学の研究手法を駆使して、ミューテーション部位に応じた「最適な低分子シャペロン」を創製し、ゴーシェ病、ポンペ病、テイ=サックス病な ど新しい治療薬の開発を待ち望んでいる患者さんに革新的な新薬を届けることを使命としています。

主な研究テーマ

  1. 希少疾患に対する効果的な薬剤シーズの探索と有効性の検証
  2. 変異酵素の構造安定化剤として機能するイミノ糖型シャペロンの設計と合成
  3. Protein-Ligand Docking を活用した副作用の少ない糖尿病治療薬のデザイン研究
  4. 特定機能性食品および化粧品機能性素材の開発研究
  5. 生薬をベースとした創薬シーズの探索および和漢薬の効果的な使用法に関する研究

教員紹介

加藤 敦カトウ アツシ
教授
学位
博士(薬学)
研究分野
糖質生化学,糖鎖生物学,和漢医薬学,天然物化学,医療薬剤学

詳細情報

田口 惇美タグチ アツミ
助教
学位
博士(医学)
研究分野
病態医化学,医療薬剤学                 

詳細情報

研究室配属を考えている学生の皆さんへのメッセージ

 私たちの研究室では、糖の構造を擬態したイミノ糖の多様性を活かし、各種疾患に対する新しい治療概念の提示に繋がるような研究を展開しています。特に最近は、リソソームに局在する酸性加水分解酵素の遺伝的活性低下に起因する希少疾患リソソーム病をターゲットにして、有効な治療戦略・治療薬開発を目指して研究を進めています。
 本研究では、遺伝子変異によって生じるタンパク質の「ゆらぎ」を抑える手段として「活性中心のカタチ」を解析し、そこにピタッとはまり強固な相互作用を形成することで振動を減衰させる、いわゆる免震ダンパーの役目をする「最適な低分子シャペロン」の創製を目指しています。鍵と鍵穴の関係と例えられるように酵素の基質認識はとても厳密ですが、その 厳密さの中に隠れている曖昧な部分を上手く利用すると、基質以上に認識され効率よく「ゆらぎ」を抑える化合物がデザインできるという驚きと発見があります。
 数学者のチャード・ファインマンは、「数学や物理というのは、神様のやっているチェスを横から眺めて、そこにどんなルールがあるのか、どんな美しい法則があるのか探していく事だ」という言葉を残しています。私も研究を通じて、一見複雑で無秩序に見える現象の中に隠された規則的な秩序を探求する楽しさを学生と共有していきたいと思っています。またここ数年は、研究室の学生と共に自分たちのアイデアや研究成果が商品に結びつくよう、企業との共同研究を積極的に進めています。企業との共同開発は、患者や顧客が何を望んでいるのか、私たちはどのような価値を提供するのかを常に考えるといった視点で、自分たちの研究を振り返り、研究開発の方向性を定めることができます。自分が携わった製品が社会に出て評価される。そんなワクワクを研究室のみんなで進めて分かち合えたらと思っています。