がん治療の現場から 富山大学附属病院 集学的がん診療センターの先端医療
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遺伝子検査に保険適用新薬の開発を促進─2019年6月に保険適用となったがん遺伝子パネル検査ですね。は約30億個と判明しました。「遺伝子」と呼ばれるのは、DNA上の塩基配列のうちタンパク質の作り方を記録している部分で、約2万3000個あると言われています。DNAの塩基配列は、人によって多少違います。仮に同じだとすると、一卵性双生児か、クローンということです。この違いによって、人種や個人差チをオンにして増殖を促し、必要がなくなると成長因子の放出が止まって増殖を制御しています。しかし、がん細胞では、増殖に関わるタンパク質に変化が起きてきます。例えば、受容体のタンパク質に変化が起きて、成長因子がないのに常に増殖スイッチがオンになってしまったり、逆に増殖を止める因子に変化が起きて増殖を止められなが生じるのですが、タンパク質を作る部分の遺伝子については、ほとんど同じです。だから、同じヒトになるわけです。多少は違うにしても、ヒトである母親と父親からDNAをもらい、それに基づいて作られたタンパク質が正常に作用しているから、私たちはヒトとして生き続けています。これに対し、がん細胞  5 には、制御不能に増殖してしまうという大きな特徴があります。通常は、必要に応じて成長因子が放出され、細胞表面の受容体にくっつくことで細胞の増殖スイッ「gene(ジーン)」と、全体という意味のくなったり、増殖が止まらない方向に細胞が導かれてしまう状態が、がんなのです。この受容体タンパク質の変化が発生する原因は、タンパク質の設計図であるDNAの変異です。それで、「がんの原因はDNAの変異」という話になるのです。 「ゲノム」というのは、遺伝子の英語ラテン語「造語で、生物の設計図である「全遺伝情報」という意味で用いられています。 ゲノム医療というのは、がんの原因はDNAの変異なので、その根本原因に対策を講じようとするものです。DNA解析に基づいて適切な薬を投与する精密医療の実現に向けた取り組みがスタートしたのです。 がん遺伝子パネル検査は、保険適用を検討するための臨床試験として、2018年から「先進医療B」という形で始まりました。約2万3000個の遺伝子のうち、がん特有の変異が確ome(オーム)」を合わせた認されている100~400個の遺伝子について正常と異なる部分を調べる検査です。その結果、変異のある部分がわかると、その変異に基づいて作られるがん関連タンパク質をターゲットにした治療薬である分子標的薬を用いて効果的な治療を行うことができます。例えば、2002年に発売された肺がんの治療薬「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)は、当初から効く人と効かない人がいることが指摘されていましたが、その理由はわかっていませんでした。飲むだけで肺がんが治る夢のような薬と言われて一気に使用が広まりましたが、間質性肺炎という副作用が出て大きな社会問題となりまし

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