がん治療の現場から 富山大学附属病院 集学的がん診療センターの先端医療
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また、血液がんの新治療として注目されているCART療法を応用し、T細胞性リンパ腫の細胞表面にあるCD開発に携わっています。富山大学医学部の免疫学教室や臨床腫瘍部と連携して研究を進めています。これらはまだ研究段階で患者さんに提供できませんが、大学病院ならではのワンランク上の血液内科を目指し、臨床と研究を両輪として積極的に取り組んでいきたいと思っています。県内の血液専門医の登録は23名で、実際に一線で働いているのは十数名と少ないです。人手不足は明らかで、学生さんや研修医に強くアピールし、血液内科の面白さを理解してもらえる体制づくりに力を入れていきたいと思っています。また、血液専門医を派遣してほしいという県内の病院の要望に応えるためにも、後進の指導は大学病院の使命です。先ほど述べた新しい研究・開発の取り組みも、若手に常にレベルの高い刺激を与えたい、その姿勢を見せたいという思いがあります。しっかりとした人材育成を行い、富山県内はもちろん、日本全国、そして世界へ優れた医師を輩出するのが目標です。白血病や悪性リンパ腫の世界では遺伝子の解析が急速に進み、例えばBCR/ABLの遺伝子異常があれば慢性骨髄性白血病と診断されるように、科学的な根拠に基づく病気の再分類が進みました。この分類を基礎として分子標的治療が発展していくという大きな流れがこの数十年続いています。当時、まだ知識が乏しかった学生の私も、何か劇的な変化が起きつつあることを肌で感じ、魅了されたのが理由です。ぜひこのような感動や喜びを、多くの学生や研修医にも味わってほしいと思います。患者さんに寄り添う、患者さんの立場になって考えるというのは当たり前ですが、患者さんが大学病院に何を期待するかというと、やはりプラスαです。先進的な知識、医学、施設との連携。また、新薬や治療に関する情報を提供できる、データを取って全国に発信するなど、大学ならではの“まとめ役”の任務を果たすことも大事です。大学病院として求められる「ワンランク上」とは何だろう、どんな付加価値をつけられるのだろう、ということを常に考えています。 また昨今、患者さんの高齢化を非常に感じます。体力的に抗がん剤治療を受けられるのかが難しい80代の患者さんや、高齢になって心臓や腎臓が悪かったり、認知機能が落ちたりしている患者さんには、どこまで治療を追求するのか、治療の対象になるのかが悩ましいという方が結構おられます。もちろん、ご本人に治りたい意思があれば、年齢には関係なく誠意を持って最善を尽くします。新しい抗がん剤や、副作用の少ない新薬を使って治療したり、薬の量を減らしたりと、そこはまさに実地臨床、医師の腕です。それも難しい高齢の方には、放射線治療や緩和へとつなげます。どんな症状でも、患者さんと一緒に悩む姿勢が大事だと思っています。今後も丁寧で優しい説明をモットーとし、地域医療との連携を大切にしながら、大学病院らしい血液内科の診療を発展させていきます。─県内では数少ない血液専門医として2018年5月に着任されました。今後、取り組みたいことはありますか?─佐藤教授が血液学、臨床腫瘍学を志した理由は?患者さんの年齢に関係なくよりよい選択肢を提供─がん患者さんには、どのような信念で向き合っておられますか?profile59       – –26を標的にした新たなCART療法の佐藤 勉(さとう・つとむ)第三内科診療部門・血液内科 診療科長【専門分野】血液学、臨床腫瘍学【略歴】1993年 札幌医科大学医学部卒業1993年 札幌医科大学医学部内科学第四講座 医員1998年 札幌医科大学大学院医学研究科修了、医学博士2004年 米国MDアンダーソンがんセンター留学2005年 札幌医科大学医学部内科学第四講座 助教 2010年 札幌医科大学医学部内科学第四講座 講師 2017年 三井記念病院血液内科 部長2018年 富山大学医学部内科学第三講座 教授【認定資格・所属学会】日本内科学会総合内科専門医、日本血液学会専門医、日本造血細胞移植学会認定医、日本臨床腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医 など

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