がん治療の現場から 富山大学附属病院 集学的がん診療センターの先端医療
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カメラを先端に付けたロボットアームを挿入します。術者は手術台から離れた場所からサージョンコンソールをのぞき込み、目の前の3D画像を見ながら、両手両足でアームを操作して手術を行います。助手は手術台の前に立ち、大きなモニターを3Dメガネで見てサポートします。鉗子の先端は自由自在に動き、細い血管や神経の縫合も容易です。立体画像なので奥行きがわかりやすく、患部への角度や深さなどに制約されません。患部を拡大して見ることや緻密な作業ができるため、がん細胞を的確に取り除き、根治率が高くなります。患者さんの利点は、従来の腹腔鏡手術に比べて出血量が極めて少なく、傷口が小さいため術後の痛みが軽く、回復が早くなることです。機能性温存の向上や尿失禁なども軽くなり、合併症がないので、入院診療計画どおりに進みます。前立腺がんと腎臓がんに加えて、2018年4月から12術式のロボット手術が新たに保険適用に追加されました。現在、当院でロボット手術が行えるがんは、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、直腸がん、肺がん、縦隔腫瘍です。食道がんも準備中です。胃がんは、腹腔鏡下手術件数などが施設基準にまだ達しておらず実施できませんが、いずれは対象となる可能性があります。ダ・ヴィンチ手術を行うためには、販売元であるインテュイティブサージカル社のライセンスが必要です。機械の仕組みや名称、トラブルシューティングなどのオンライン試験に合格後、2日間の動物ラボトレーニング研修を経て、認定指定病院に行き、手術見学やレクチャーを受ける必要があります。当院には、このライセンスを持つ医師が泌尿器科に4名、他の診療科に5名います。 各診療科でダ・ヴィンチ手術を導入する際、私がアドバイザーとして、他の診療科の医師・看護師・臨床工学技士らのチームに、トレーニング方法を助言することはありましたが、泌尿器科以外の術式指導には関与しません。泌尿器科においては、新しい手技があれば全員で共有し、技術のアップデートを図っています。 ダ・ヴィンチの利点は操作性に優れ、“神の手”を持つ医師でなくても、ある一定のスキルを身につければ、難しい手術でも同じように多くの医師が手がけられるようになることです。誰が執刀しても高いレベルの医療を多くの患者さんに提供することが期待されています。当院には操作を行うコンソールが2台あり、1台は手術に使い、同時にもう1台で手術を見ることができ、手取り足取り教えられるシステムになっています。そのため、技術習得は効率的で早いです。これからは後進を育て、次の世代につないでいくのが使命です。県内で稼働しているのは、当院と富山県立中央病院、市立砺波総合病院の3つで、高岡市民病院と厚生連高岡病院にも2019年秋に導入されました。今後も導入する病院は増えていくと予想され、当院で育てたロボット外科医を関連病院に派遣し、どの地域でも同じように先進医療を受けられるようにしていくことが大学病院の役割だと思っています。─北村教授は、ダ・ヴィンチプロクター(指導医)でもあります。後進にどのような指導をされていますか?50   

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