がん治療の現場から 富山大学附属病院 集学的がん診療センターの先端医療
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も小さくありません。また、症状の指標であるパフォーマンスステータス(PS)を悪化させるため、これを基準にした治療の継続が困難になることもあります。そのため、転移性骨腫瘍によって患者さんが骨折をきたした場合などは、痛みの軽減、神経障害の改善、四肢機能の確保などを目的とした手術を行う人工関節などを用いた従来の手術には、処置の煩雑さ、対応できる部位の少なさといった問題がありました。これに対し、3Dプリンターによる生成はデザインの自由度が高く、転移巣に応じた造形を行うことが可能です。また、切除した骨の両端に固定した人工ことがあります。このうち、四肢を骨折した場合などは、機能障害を抑えるため、腫瘍を切除して再建する必要があります。しかし、この再建手術に関しては、これまでは最適といえる方法や機器がありませんでした。そこで、独自に人工骨幹の開発を目指すことになりました。骨幹を互いに接合する方式により、手術の簡略化と時間短縮が可能となります。加えて、出血量の減少など、人体への負担軽減も期待できます。 生成に使用する3Dプリンターは、造形スピードに優れた電子ビーム式を採用しています。このプリンターの性能と協力企業の尽力により、骨幹製作の発注から手術までに通常は28日間程度要するところを、10日間程度に短縮することができました。痛みを伴う症状のある患者さんにとって、この差はとても大きいのではと考えます。また、電子ビーム式の3Dプリンターは精度の面でも優れているため、体重を支えるのに十分な強度をそなえた骨幹を生成することができます。 人工骨幹に使用されるチタン合金は、従来の人工関節に使用されているコバルトクロムに比べ、人体との相性がよく、MRIやCTなどの画像検査の妨げになりにくいという特徴もあります。腫瘍には再発のリスクが常にありますので、検査の精度に影響しにくい素材の選定は、非常に大事なのです。このように、多くの利点をもつカスタ    ムメイドの骨幹であれば、従来なら手術が難しいケースにも対応できる場合があります。手術により腫瘍を切除することができれば、生命予後の延長につ─3Dプリンターによる人工骨幹のメリットは?代表的手術例左:上腕骨単純X線像。上腕骨骨腫瘍は切除され、正常な形態に再建されている右:カスタムメイドで作製されたインプラントの外見写真30

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