がん治療の現場から 富山大学附属病院 集学的がん診療センターの先端医療
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従来から、がん細胞に熱を加えて死滅させる「ハイパーサーミア」(温熱療法)という治療法がありますが、オンコサーミアはがん細胞の自死(アポトーシス)機能を誘導し、自然な細胞死を促します。強めの電磁波を使うハイパーサーミアに比べ、やけどなどのリスクが低く副作用が少ないのが特徴です。がんの部位に関わらず効果があるとされていますが、富山大学附属病院の臨床研究では特に乳がんに効果が認められました。乳がんが皮膚に転移すると膿が出たり出血したりと患者さんは大変つらい思いをされるのですが、オンコサーミアを組み合わせることで皮膚への転移が小さくなりました。現在は臨床研究が終了し、自由診療となっています。治療費は1回5000円で、手術後に週2回のペースで治療を受けてもらいます。オンコサーミアは海外では実績がありますが、国内ではまだ普及が進んでおらず、富山大学での治療・研究は先進的な取り組みとなります。患者さんから退院後の食事について質問されたのをきっかけに、マクロビオティックの考え方を取り入れ、手術後の栄養療法の研究を進めています。希望者に術後の病院食として提供し、玄米や野菜を中心に、富山の豊かな恵みを生かした良質なたんぱく質などもバランスよく摂取することをすすめています。実践した患者さんのデータを集計すると、体重減少がみられ、がんのリスクである肥満を防ぐという意味で、一定の効果があることがわかりました。患者さんからは「食事を意識することで生活に一本の芯が通り、精神的に安心できた」などの声が寄せられています。富山大学附属病院の栄養サポートチーム(NST)の副チーム長も務めていますので、引き続き栄養療法について研究を進めていきたいと考えています。 乳がんの患者さんは、抗がん剤やホルモン治療によって、吐き気や倦怠感、手のしびれ、けいれん、こむら返りなどさまざまな副作用に悩まされています。それに対して、富山大学が先進的な研究を行っている漢方薬で副作用を軽減し、体力や免疫力の向上に役立てています。自身でも、漢方薬でがんを治療する「がんに効く漢方」の研究を進めており、マウス実験の段階では非常に有望な治療法が見つかっています。今後はヒトへの応用も目指していきたいと考えています。 患者さんは一人ひとり生活スタイルが異なり、治療への考え方もさまざまです。「とにかくしっかりと治療をして、孫のためにできるだけ長生きしたい」という方もいれば、「絶対に抗がん剤は使わないでほしい」という方もいます。そして、がんの進行度や治療の効果も多様です。当院では、外科治療、放射線治療、薬物治療に加えて、オン   コサーミアや栄養療法、和漢薬療法などを組み合わせることで、その人に合った治療法を提案できるようになってきています。泣きながら治療を続ける必要はまったくありません。医療者、家族としっかり相談し、納得した治療を受けてほしいと思います。2019年10月からは、乳がんの─入院中に、マクロビオティックを取り入れた食事も提供しているそうですね。─和漢薬療法にも取り組まれているそうですね。─乳がんの治療には、幅広い選択肢があるのですね。─今後の新たな取り組みを教えてください。乳がんの放射線治療に用いられる「SAVI」26

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