がん治療の現場から 富山大学附属病院 集学的がん診療センターの先端医療
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つらい経験を重ね確信「早期発見しかない」─がんに苦しむ患者さんに対し、どのような信念をもって治療に取り組んでこられましたか。セットで、早期の膵臓がんを見つけることを目指しています。膵臓がんは、肝臓がんを抜いて日本のがん死因の4位になりました。関心の高い疾患ですし、富山県には健康意識の高い方が大変多いので、専門的な検診の需要はあると思います。2次検査はもちろん当院で行いますが、一次スクリーニング体制を整えることによって、膵臓がんを小さな段階で見つけられるのではないかと期待しています。10%未満の膵臓がんの5年生存率を、富山県では今後5年間で20%にすることが、私たちの目標です。乳がんや大腸がんに関する原因遺伝子の研究は大変進んでいますが、膵臓がんに関してはまだ正確ではありません。感覚的な言い方ですが、突然がんがポンとできるのです。もちろん、膵臓がんについても原因遺伝子の研究が世界中で行われてきましたが、未だ解明されていません。最も遅れています。ほかのがんと違うということは、ほかの発がん機序があると考えるべきです。そこで、次の展開として、新しい視点で発生機序を考える研究にも取り組んでいます。これまでも、遺伝子の異常から発症までの発生機序が解明された結果、近年注目されている分子標的治療薬が開発され、新たな治療ができるようになりました。根本的な治療法を開発するためには、まず原因を見つけることが不可欠なのです。膵臓・胆道という分野に携わって約道がんというのは助かる方が少なく、なかなかつらい領域です。   健診などで膵臓に嚢胞が見つかる患者さんは結構いらっしゃいまして、皆さん「がんですよね」「助からないのでしょうか」と大変心配されるのですが、悪性のものは2、3%くらいしかありません。今は情報が多すぎて、逆に不安が煽られています。正確な情報で過剰な不安を取り除くと同時に、的確に診断できるよう正確な検査に努めています。 膵臓がんの患者さんは、手術できれば幸運で、手術できないケースの方が多いのです。がんに伴って発症する黄疸や疼痛、十二指腸閉塞などの合併症の治療を行い、患者さんの苦痛を少しでも軽減できるようにサポートしたいと思っています。つらい経験を重ねてきたからこそ、膵臓・胆道に関しては早期発見しかないと確信しました。とにかく早く見つけるしかないのです。 通常の健診では、血液検査と胃透視または胃内視鏡検査、便潜血があり、これで胃がんと大腸がんはかなり早期に見つかるようになりました。ただ、膵臓がんに関しては、腫瘍マーカーや便検査で有用な指標が見つかっていないので、やはり腹部超音波検査で膵管の拡張などを見つけてもらうしかありません。ですから、年に1回は腹部超音波検査を含む人間ドックを受けていただきたいのです。これで、早期発見の確率はぐんと上がると思います。異常を指摘された場合は、専門医を受診してください。消化器内科といっても、胃や大腸を専門にしている医師ではなく、膵臓・胆道の専門医を受診されることをおすすめします。─先ごろ、がん遺伝子パネル検査が保険収載されました。遺伝子検査で膵臓がんのリスクが分かれば、より注意して早期発見につながるのでは?─患者さんや一般の方へのメッセージをお願いします。鏡部2008年 岐阜大学医学部附属病院第一内科 講師2012年 岐阜大学大学院医学系研究科地域腫瘍学 准教授2014年 帝京大学医学部消化器内科学 教授・帝京大学医学部附属溝口病院消化器内科 科長2018年 富山大学大学院医学薬学研究部内科学第三講座教授【認定資格・所属学会】日本内科学会総合内科専門医・指導医・評議員日本消化器病学会専門医・指導医・財団評議員日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・社団評議員日本胆道学会認定指導医・評議員日本膵臓学会指導医・評議員日本高齢消化器病学会理事profile1925年になりますが、特に膵臓がんや胆安田 一朗(やすだ・いちろう)富山大学大学院医学薬学研究部内科学第三講座 教授【専門分野】消化器内科、消化器内視鏡、胆・膵疾患の診断・治療、超音波内視鏡を用いた診断・治療【略歴】1990年 岐阜大学医学部卒業1990年 岐阜大学第一内科入局2002年 独ハンブルク大学エッペンドルフ病院総合内視

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