緩和ケアマニュアル
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●神経破壊術を用いた神経ブロック がん性疼痛の場合,局所麻酔薬などの薬液による神経ブロックを複数回施行できるとは限らないため,施行後の患者のADLやQOLの改善を見込んだ上で,単回施行の神経破壊術を用いた神経ブロックで除痛を図ることを検討する.その神経破壊術には,薬液を使用する方法と熱を利用する方法がある.事前に,局所麻酔薬を用いて神経ブロックの効果確認を行う.また,部位によっては,半永久的な上下肢の運動麻痺や膀胱直腸障害などをきたす可能性があることを十分に説明する.●腹腔神経叢ブロック(内臓神経ブロック) 交感神経ブロックの1つであり,腹部や骨盤内臓器のがん性疼痛(内臓痛)を緩和する.薬物療法よりも優れた鎮痛効果を発揮し,知覚・運動障害を生じず,施行後にオピオイド投与量を減らしてQOLを向上させることができる.ただし,全身状態が良くない患者においては,施行中に体位保持が困難になる可能性や施行後の低血圧に耐えられない可能性があるため,痛みが出始めた早期に施行することが望ましい.CTやX線透視を用いた従来からの後方アプローチと超音波内視鏡を用いた前方アプローチがある.前方アプローチは後方アプローチと比べ,アプローチ経路において介在する組織や臓器が少なく,また超音波内視鏡下で被曝しないで行えるといった利点がある. 合併症は,交感神経をブロックすることによる血圧低下や一過性の下痢,多量のアルコールを使用することによる急性アルコール中毒やアルコール性神経炎がある.また,後方アプローチによる椎間板炎の他に,血管穿刺・出血・血腫,消化管穿刺などにも注意しなければならない.抜針後は刺入部を十分に圧迫しながら低血圧を監視する必要がある.一方,前方アプローチは後方アプローチと比べて安全とされてはいるが,合併症の多くは後方アプローチと共通しており,その他に消化管壊死や胃穿孔を生じた症例など,稀ではあるが重篤なものも報告されている.44

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