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子どもたちの未来をつなぐ医療(1/3)

子どもたちの未来をつなぐ医療

医者として、 当たり前のことを当たり前にやるために。

医療援助を通してベトナムに教えられる

聞き手 ベトナムでの活動について教えてください。

芳村 私は以前、兵庫県立こども病院にいたのですが、もう20年以上前からその病院の先生方がベトナムのハノイの病院に行かれていました。私の師匠も含めて何人かの先生方がハノイで手術の指導などをしておられたのですが、その先生方もリタイアされる年代になってそろそろ世代交代をしようということで、私も行くようになりました。
昨年の1月に初めて行ったんですが、今、ベトナムはどんどん変わってきています。もともとその病院では小児心臓外科はやっていなかったんです。ベトナムの一般小児外科の先生が兵庫こども病院でずっと研修を受けていて、10年ぐらい前に今度は心臓外科を始めるということで、また兵庫に来られたんです。最初だからそんな難しいことはできないんで、簡単な病気の簡単な手術を見せてくれと言われて、当時の私がやっていたような比較的簡単な手術を見て帰られたんですが、昨年、10年たって行ってみると、もう何か別世界のようになっていました。もともとベトナムは子どもの数も多いんですが、難しい手術ができるのはそこの病院しかなくて、すごい数の手術をしているわけです。現場での経験が多い分、すごいレベルが上がっているんです。逆に私がいい勉強をさせてもらいました。

子どもたちの未来をつなぐ医療

聞き手 もともとは医療技術を提供されていたんですよね。

芳村 医療技術と知識ですね。小児先天性心疾患の治療というのは、やっぱり専門的な技術がいるものですし、その病気に対する診断の能力あるいはその治療を進めていく知識はまだもう少し必要かもしれません。でも、実際の手術現場で手を動かして手術するという面だけを見れば、ベトナムの先生はものすごく上手になっていますね。

聞き手 10年前と比べものにならないほどでしょうか。

芳村 今回現地に行く前は手術を教えてあげようと思っていたんですが、実際行ってみると教えてもらうほうが多いなあという感じですね。これからは、技術や知識での連携も大切にしながら、あともう一つは、学生の実習場所として連携させてもらおうと思っています。富山大学の学生は今年の春からベトナムのこの病院に実習に行くことにさせてもらっています。
もともと富山大学には海外選択制臨床実習という制度があるので、海外で実習する学生が多いです。第一外科では、去年からフランスやドイツなどいろんな所に学生を行かせているんです。その流れでベトナムもいいなと思って。ヨーロッパだとかそういう所もいいんですけど、ベトナムなどの発展途上国に興味を示す学生もたくさんいて、実際、国としてすごい勢いがありますしね。

ベトナムでは病院の数が足りない。

聞き手 ベトナムに行かれて何か印象的なことはありましたか。

芳村 ベトナムは国全体としての勢いがすごいですね。今の時代にまずGDPの成長率が年間5%という、そんな国ほかにないですからね。経済の発展につれて医療も進歩していると思います。ただ、まだまだハードが十分ではありませんし、病院自体は綺麗とは言えないですから。それで患者さんも入り切れないですよね。まず人口7,000万の国で出生率が2.1ほどで、日本の倍ぐらいの子どもが生まれるんですね。そして、難しい病気だということがわかって病院にたどり着くのが多分その半分ぐらい。病院までたどり着いたけど、手術場までたどり着かないで病院で亡くなる子どもがまたその半分ぐらいですね。だからすごいたくさんの手術していて、言ってみれば日本中の病気の子を1つの病院に集めてみたようなものです。

第1外科診療部門 教授 芳村直樹

聞き手 圧倒的に病院が足りないですね。

芳村 病院自体が足りないですね。だから家族にしても、もうあの病院まで行ってダメだったんだから仕方がないみたいなところもあるのかもしれません。病院の中に入ると、患者さんがそこら辺で転がっているような感じです。寝転がって手術を待っているけど、間に合わずに亡くなる子もいっぱいいますね。

聞き手 今後の関わりについて。

芳村 これからは年に1回か、2年に1回行って、ずっと続けたいと思いますね。勉強になります。我々も勉強になるし、我々が行ったときに向こうの先生たちも、普段やっている簡単な手術はどんどん向こうの先生が進めますけど、変わった手術とかちょっと難しい手術なんかはやっぱりまだお手伝いできることはあると思います。それにしても、あちらの先生は本当に上手ですよ、手術。ただ、子どもの手術というのは、一回だけの手術で治る病気と、順番に何回も手術を重ねていって最終的に完成させるという病気があって、やっぱりそういう段階を踏んでやっていくというのは、まだベトナムの先生は慣れてないですね。外科医もそうですけど、小児科医がそういう段階的治療というのがまだちょっと苦手なようで、途中で、ここまではうまくいったけど次の手術までの間に患者さんが亡くなってしまうことがあるみたいで。