疼痛緩和治療マニュアル (平成9年5月版)

                  富山医科薬科大学附属病院

                    -疼痛緩和マニュアル作成委員会編-

    

  序  文(片山喬病院長)

  A.疼痛緩和治療の基本

   1.末期にみられる症状・徴候

   2.痛みの原因

   3.疼痛の発生頻度

   4.痛みの評価

   5.疼痛治療の目標

   6.モルヒネの製造と消費

   7.疼痛緩和治療に関する医療側の問題点

  B.痛みのコントロールの基本

   1.鎮痛薬使用の原則

   2.鎮痛薬の選択順序(WHO方式三段階治療法)

  C.疼痛緩和の鎮痛薬

   1.非オピオイド鎮痛薬

   2.弱オピオイド鎮痛薬

   3.強オピオイド鎮痛薬

    a)モルヒネの臨床的特徴

    b)モルヒネの経口投与法

    c)モルヒネの非経口投与法(直腸内投与法)

    d)モルヒネの非経口投与法(持続皮下注入法)

    e)モルヒネの非経口投与法(持続静脈内投与法)

    f)痛みがモルヒネに反応しないとき

    g)モルヒネ投与による効果の判定

    h)注射から経口投与への切り換え方法

    i)経口モルヒネ投与の中止方法

    j)モルヒネの副作用対策

    k)その他の強オピオイド鎮痛薬

  D.鎮痛補助薬

   1.鎮痛補助薬使用の原則

   2.鎮痛補助薬の使用法

    a)コルチコステロイド

    b)抗うつ薬

    c)抗てんかん薬

    d)抗精神薬

    e)抗不安薬

    f)睡眠薬

  E.緩和ケアの留意点

   1.末期症状への対処

    a)呼吸困難

    b)死前喘鳴 (death rattle)

   2.患者・家族との接し方の要点

    a)精神的ケア

    b)家族へのケア

  F.その他

   1.硬膜外ブロック・神経ブロック

   2.疼痛治療で用いられる持続注入器

  G.参考図書・文献

 

 

  序  文

       附属病院病院長 片山 喬

 臨床の実際において薬剤が適切に使用されれば,期待された薬剤の効果が得られ,薬剤によって患者さんに不利な障害を与えることはない.癌の終末期の治療においても同様であり,疼痛緩和治療に関連した薬剤の正確な情報・投与手順を理解しておくことはきわめて大切なことである.1986年にWHOが疼痛緩和治療に関する勧告を出した.これにより,徐々にではあるが疼痛緩和治療は改善されてはいる.しかし,オピオイドの使用量からみても,日本は未だ痛みの治療の先進国とはいえない.院内には疼痛緩和の専用病棟はなく,終末期の患者さんの治療は病棟単位,各科単位,各主治医単位で行われているのが現状である.私は常々,病院として疼痛緩和の治療方針(マニュアル)を作りたいと願ってきた.

今回,倫理委員会のサブグループの疼痛緩和治療マニュアル検討委員会が短時間でこのマニュアルを作成してくれた.その内容の多くは成書や文献の引用だが,本院の特徴も少なからず盛り込まれ,大変役に立つものになっている.ここにマニュアル検討委員会諸氏の努力に敬意を表したい.

 さて私は,これを契機として院内の疼痛緩和治療に関する勉強会・検討会をやっていただきたいと思っている.各疾患・臓器別には各科を横断した検討会が毎週のように開かれてはいる.痛みという共通の,患者さんを常に苦しめている病態には未だその検討会はない.医師だけではなく,看護婦(士),薬剤師,あるいは痛みに関連する色々な方々が,勉強しあえる場を是非とも作っていただきたいと切望するものである.

 最後に,本マニュアルが多くの人々に読まれ,その意図することが痛みや苦しみの中にいる終末期の患者さんやそのご家族の平安な日々に寄与することを祈ります.

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A.疼痛緩和治療の基本

 1.末期にみられる症状・徴候

  入院中の主な症状・徴候を以下に示す.

     1.全身倦怠感 2.食欲不振 3.痛み 4.発熱 5.便秘 6.咳嗽 7.呼吸困難 

     8.不眠 9.浮腫 10.口渇

 2.痛みの原因

  a)腫瘍による痛み(転移,浸潤,閉塞など)

   骨転移,内臓転移,管腔臓器の閉塞,神経への圧迫・浸潤,軟部組織への浸潤,

   血管・リンパ管浸潤,脳腫瘍による頭痛 など

  b)癌治療に起因する痛み

   手術後,化学療法後,放射線治療後

  c)全身衰弱に関連する痛み

   褥瘡,便秘,口内炎など

  d)癌や癌治療に関連のない痛み

   片頭痛,緊張性頭痛,筋・筋膜症候群,骨関節炎,帯状疱疹,帯状疱疹後神経痛

 3.疼痛の発生頻度

  a)末期癌患者の約70%は主症状として痛みを体験する.

  b)その50%はかなり強い痛みであり,30%は耐えがたいほど痛い.

  c)痛みを訴える癌患者の80%に複数の痛みが発生する.

 4.痛みの評価

  末期にみられる痛みは急性痛のそれとは異なる.患者の身体的苦痛(痛み)のほか,精神的苦痛

  社会的苦痛などを総合的に評価する.Visual Analogue Scale (VAS) もよい評価方法であるが,

  「痛み」「食欲」「睡眠」「気分」の4項目を「何割か?,何割よくなったか?」と尋ねるとおおよその評
  価ができる

 5.疼痛治療の目標

  疼痛治療の目標は,癌患者の痛みが消失した状態を維持し,生活内容をできる限り平常の状態に

  近づけることにある.実際に疼痛治療を開始する際には,次のような目標設定に留意する.

  a)昼間の痛みの軽減と夜間の良眠を確保する.

  b)安静時の痛みを消失させる.

  c)起立時や体重負荷時に痛みがない状態を維持する.

 6.モルヒネの製造と消費

      表1.世界の上位5カ国の製造・消費(1993年)

      製造(s)   消費(s) 
1.アメリカ     64.448 1.アメリカ    5.377
2.イギリス    47.565 2.イギリス    2.408
3.オーストリア  36.082 3.カナダ       789
4.フランス     32.322 4.ドイツ        595 
5.日本        9.817 5.フランス      398
  日本        359  

      表2.先進国における1日あたりのモルヒネ消費量(g/100万人) 

1989 1990 1991 1992 1993
カナダ 41.9 50.1 56.6 61.1 67.3
イギリス 39.8 44.5 50.2 53.4 66.7
オーストリア 24.1 31.0 34.8 40.3 58.9
アメリカ 19.6 24.0 28.2 33.6 40.2
フランス  4.0  5.9  7.9 11.1 13.6
ドイツ  7.9  6.4  8.6 10.5  8.3
日本  1.9  2.5  3.2  4.2  5.3
ロシア  2.7  2.3  2.3  5.0  2.5
イタリア  2.3  2.7  ー  2.8  2.4

   

 

 7.疼痛緩和治療に関する医療側の問題点

  a)患者の痛みの訴えの軽視

   痛みとは患者のみが感じる純粋に自覚的な症状であるため,痛みを感じている患者自身による

   痛みの訴えを医療側が軽視してしまうと,治療成績は向上しない.痛みの強さを最も正確に判

   断できるのは患者自身であることを銘記すべきである. 

  b)痛み治療の目標の低さ

   痛みの治療の目標を,少しは痛む状態と,目標を低く設定してはならない.痛みが消えた状態を

   目標におくべきで,常に患者を観察し治療を補正すべきである.

  c)モルヒネは副作用が多いとの認識

   モルヒネは多くの薬理作用をもつ薬であり,鎮痛作用以外の副作用を防止しながら使用していか

   なければならない.副作用対策を確実に行っているか,常に再確認する必要がある. 

  d)医療目的の麻薬使用による依存性への恐怖心の一掃

   医療目的の麻薬,なかでもモルヒネの使用と依存性との関連は少ないことが知られるようになっ

   てきた.一般市民がもつモルヒネへの恐怖感は,医師,看護婦,薬剤師などの医療関係者が何

   世代にもわたり古い知識に基づいて植え付けてしまった誤った考えであると理解すべきである.   

   

   
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B.痛みのコントロールの基本

 1.鎮痛薬使用の原則

  a)なるべく簡便な経路で投与する.

  b)原則として,経口・直腸内・注射の順で選択する.

  c)少量から投与を開始し,患者個々の痛みの消失に必要な量を選択する.

  d)鎮痛効果が切れる1時間前に次回分を規則正しく投与し、屯用指示はしない.

  e)薬の効果が不十分なときには,次に強い効果の薬に切り換える.

  f)モルヒネの使用は予測される生存期間の長さではなく,痛みの強さで決める.

  g)適応があれば,鎮痛補助薬を併用する.

  h)個々の処方はできるだけ単純化し,配合剤は使用しない.

  i)鎮痛薬の副作用の防止は確実に行なう.

  j)効果と副作用については事前に説明しておく.

  k)薬以外の治療法や痛みの訴えの背景にある心理的あるいは社会的な問題を検討する.

2.鎮痛薬の選択順序(WHO方式三段階治療法)

  a)痛みがあれば直ちに鎮痛薬を投与する.

  b)痛みがなくなるまで薬を段階的に選択する.

   (1)まず非オピオイド鎮痛薬を使う.

   (2)効果がなければ,弱オピオイド鎮痛薬を追加する.

   (3)さらに効果がなければ,モルヒネを投与する.

  c)いずれの鎮痛薬も時間を決めて規則正しく投与する.

  d)痛みの訴えの都度,薬を投与する頓用方式で投与してはいけない.

  e)効果の確実な鎮痛薬を正しい量で正しい時間間隔で投与すれば,癌患者の痛みの90%は消失
    する。

   


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C.疼痛緩和の鎮痛薬

 1.非オピオイド鎮痛薬

  a)ナイキサン錠(100mg)

   投与量:3〜6錠/日,2〜3回に分けて経口投与する.

   副作用:胃腸障害はアスピリンに比べて少なく,長時間作用する.

  b)ロキソニン錠(60mg)

   投与量:3〜6錠/日,3回に分けて経口投与する.

   副作用:胃腸障害は比較的少ない.

  c)ボルタレン錠(25mg)

   投与量:3〜6錠/日,3回に分けて経口投与する.

   副作用:胃腸障害を起こしやすいので注意する.

  d)ボルタレン坐薬(12.5mg,25mg,50mg)

   投与量:1〜4個/日、1〜4回に分けて直腸投与する。

   ナイキサンやロキソニンで不十分な時に使用する。

   副作用:胃腸障害を起こしやすい場合に坐薬で投与する.

 2.弱オピオイド鎮痛薬

  a)リン酸コデイン散(10倍散は麻薬,100倍散は劇薬)

   鎮痛作用はモルヒネの1/4

   投与開始量:30mg/回,4〜6時間毎に経口投与する.

   有効限界:130mg/回

   副作用:便秘には緩下剤の併用で対処可能である.高齢者での急激な増量は痰の喀

       出を困難にすることがある.

 3.強オピオイド鎮痛薬

  癌性疼痛の治療において投与方法や安全性が確立されているのはモルヒネだけである.

  本院における投与剤形は,MSコンチン錠,モルヒネソリューション,アンペック坐

  薬,MSコンチン坐薬(院内製剤)及びモルヒネ注の5種類がある.

  【内服薬】

   MSコンチン錠10,30,60mg,塩酸モルヒネ末

  【坐薬】

   アンペック坐薬10,20mg

   MSコンチン坐薬5,10,20,30,40,60,70,90mg(院内製剤)

  【注射薬】

   塩酸モルヒネ注10,50mg(1,5ml)

a) モルヒネの臨床的特徴                    

(1)簡便な投与経路で大きな効果を得ることができる.      

(2)投与量に個人差があるため,患者ごとに至適量を求める必要がある.

   (3)投与量と鎮痛効果がほぼ比例するので,投与量が調節しやすい.

   (4)投与量に限界がないので,副作用に注意すれば増量が可能である.

   (5)蓄積傾向が少ない.

   (6)経口投与では主として小腸から吸収され,肝で代謝される.

   (7)注射投与で肝を経ないので,経口投与量の1/3〜1/2で同等の効果が得られる.

   (8)便秘や嘔吐は鎮痛有効血中濃度で発現するが,呼吸抑制や催眠はもっと高い血

    中濃度で発現する.

   (9)ヘルペス後神経痛,筋痙攣痛,胃膨満痛など,いくつかの痛みには効果が不十

    分かまたは無効である.

   (10)鎮痛目的の適切な投与法では,耐性と身体的依存は長期反復投与を妨げることはなく,精

    神的依存の発生は皆無に等しい.

  b)モルヒネの経口投与法

   (1)投与開始量:MSコンチンでは10〜30mg/回,モルヒネソリューションでは5〜10mg/回より

    開始する.

   (2)投与間隔:MSコンチンでは12時間ごと,モルヒネソリューションでは4〜5時間ごとに規則正し

    く投与する。

   (3)モルヒネソリューションで1回量が60mg以下の場合,就寝時に2倍量を服用することにより,

    深夜投与が省略できる.

   (4)投与開始から24時間後に効果を判定し,痛みが残っていれば1回量を50%増量する. 

   (5)以降も効果不十分なら順次増量し,痛みの消失に必要な量に調節する.

   (6)患者ごとに必要量が異なり,副作用が発現しなければ投与量に上限はない.

   (7)効果と副作用をみながら投与量を調節する.

  c)モルヒネの非経口投与法(直腸内投与法)

   (1)経口投与との効力比は1:1である.

   (2)MSコンチン坐薬は硫酸モルヒネの坐薬である.

   (3)アンペック坐薬は塩酸モルヒネの坐薬である.

  d)モルヒネの非経口投与法(持続皮下注入法)

   (1)モルヒネ内服により除痛されている場合:1日内服量の半量を維持量として持続皮下注入を

     始める.

   (2)除痛が不十分な場合:(1)の20〜30%増しを維持量とする.
   (3)持続皮下注開始時に維持量の1/12(2時間分)を早送りで投与すると,早期に安定した鎮痛

     が得られる.

   (4)疼痛増強時には1〜2時間量のモルヒネを急速に投与する.

   (5)直接本法を開始しなければならない場合:まず持続皮下開始時に2〜4mgを早送りし,

     1日量15〜20mgのモルヒネ注入から始める.

  e)モルヒネの非経口投与法(持続静脈内注入法)

(1) 疼痛対策が不十分で患者が痛がっている場合:モルヒネ2〜5mgをゆっくりと,疼痛が消失するま

  で静脈内に数回に分けながら徐々に投与,その総量を初回量とする(初回量が20mg以上の時は

  呼吸抑制に注意!).疼痛が消失後,専用のシリンジポンプで持続的にモルヒネを静脈内に注入

  (維持量).維持量は初回量の4倍とし,モルヒネに生理食塩水を加えて24時間連続注入する

  (24ml,36ml,48mlとし,1時間に1ml,1.5ml,2mlで注入すると便利). 

(2) モルヒネを内服中の患者の場合:1日内服量の半量を1日あたりの維持量とし,モルヒネ内服が 

  不可能になった時点から,維持量を(1)と同様のやり方で持続静脈内注入する.
(3) 緊急的に鎮痛処置がなされ,今現在は除痛されている場合:モルヒネ30mg(高齢者や衰弱者で

  は10ml)を維持量とし,持続静脈内注入を開始する.

(4) 持続モルヒネ静脈内注入中に,患者が痛みを訴える場合:1時間量のモルヒネを疼痛が消失する

  まで早送りする.1日に3時間量以上の先送りの要求がある場合は維持量が不足していると判断

  し,維持量を5割増しにする.

(5) 手術や化学療法・放射線療法などで疼痛が軽快したり,癌の進行により傾眠状態になった場合

  :維持量を6割に減量する.減量は経過をみながら数日かけて行う. 

(6) 全身状態の改善によって,あるいは手術・検査・化学療法が終了して内服が可能になった場合:

  1日静脈内注入量の2倍を1日内服量とし,内服1回分を塩酸モルヒネならば静注終了の2時間前

  から,硫酸モルヒネ徐放錠ならば静注終了の4時間前から内服させる.

  

  f)痛みがモルヒネに反応しない時

   (1)モルヒネ投与量が不足している.

    1)投与量が少ない.

    2)投与回数が少ない.

    3)頓用方式で投与している.

   (2)まれに消化管の吸収能力が低下している.

   (3)心理的,社会的問題が関与する.

  g)モルヒネ投与による効果の判定

   (1)理想的には2時間後と4時間後に行う.

   (2)2時間後に効果がみられなかったら,50%増で投与する.

  h)注射から経口投与への切り換え方法

   (1)患者の心理状態に配慮しながら段階的に切り換える.

   (2)まずモルヒネ以外の薬を経口投与に切り換える.

   (3)慣れてきたら午前10時と午後6時のモルヒネを経口投与に変更する.

   (4)次いでその他の時間のモルヒネを経口投与に切り換える.

  i)経口モルヒネ投与の中止方法

   モルヒネの退薬症状は発汗,頻脈,高血圧,疝痛,下痢,生欠伸などである.

   (1)2〜3日ごとに投与量の1/4〜1/3を減量すると退薬症状は出現しない.

   (2)1回量30mgを4時間ごとに投与していた場合には,まず20mgの4時間ごとを

    2〜3日続ける.

   (3)問題がなければ,2〜3日毎に15mg,次いで10mgの4時間毎の投与にする.

   (4)さらに5mgの4時間ごと投与とし,投与間隔を6〜8時間毎とし,中止に至る.

  j)モルヒネの副作用対策

   (1)便秘

    1)ほとんど全例にみられる.

    2)便秘の程度は投与量と相関する.

    3)モルヒネ投与と平行して緩下剤の予防投与が必要である.

    4)経口投与が有効でない場合には,経腸的処置を行う.

   【カマ(酸化マグネシウム)】

    ・腸管内に水分を移行させるため腸管内容は軟化増大し、その刺激で腸蠕動を促進させる.

     第一選択薬である.

    ・1回0.5〜1.0 g 1日3回

   【ラキソベロン】

    ・大腸刺激性で,作用は強力である.

    ・1回5〜20滴(1ml=15滴)就寝前

    ・便通が不十分場合,20->25->30->35->40->…滴/日に増量する.

    ・非常に頑固な場合,1回に5〜10mlを服用する例もある.

   【プルゼニド】

    ・大腸刺激性作用あり.

    ・1回1〜2錠(12〜24mg)就寝前

    ・便通が不十分場合,3->4->6->8錠/日の順に増量する.

    ・投与量が多くなれば1日2〜3回の投与とする.

   (2)悪心・嘔吐

    1)約1/3の患者にみられる.

    2)すべてに制吐剤が必要ではないが,予防的に投与する方が無難である.

    3)悪心・嘔吐はいずれ消失する(耐性を生ずる)ので,制吐剤の減量もしくは中止が可能である   

    【ノバミン】

    ・ モルヒネの悪心には第一選択である.眠気や抗コリン作用はない.

      1回5mg(1錠) 1日3〜4回

    【セレネース】

    ・少量では眠気や錐体外路症状は出現しにくい.液薬での投与が望ましい.

     1回0.5mg(1ml=2mg) 1日3〜4回

    【ピーゼットシー】

    ・制吐作用も強いが鎮静作用も強い.

     1回2〜4mg 1日3〜4回

   (3)眠気

    1)症状としては,呼名や軽い刺激ですぐに覚醒し,平常通りの会話ができる.

    2)見当識障害や意識混濁は伴わない.

    3)眠気は早期(3〜5日間)に消失する.

    4)原則として痛みがとれるまでは強い眠気は起きない.

    5)眠気を起こす他の原因と鑑別する必要がある.

    【軽度の場合】

    ・大部分は様子観察で数日で軽減・消失する.

    【眠気が強く,痛みがない場合】

    ・過量投与を疑い,減量する.

    ・減量は1回量の2〜3割減

    【上記で改善しない場合】

    ・リタリン錠を投与する.

     1回10〜20mg 1日1回(朝)または2回(朝,昼)

    ・夕方以降の投与は不眠を誘発する.

   (4)混乱・幻覚

    1)末期癌患者の約1/3に出現する.

    2)高カルシウム血症による混乱が見逃されやすいので注意する.

    3)混乱が出現して痛みがない場合,モルヒネを減量(3〜5割)する.

    4)それでも軽減しない場合,中止する.

    【混乱の治療】

    ・セレネースが第一選択薬

    ・少量から開始し,落ちつくまで増量する.

    ・鎮静作用が強い場合には徐々に減量する.

    ・モルヒネによる混乱の場合,数日から1週間で落ちつく.

    ・セレネース液1回0.5〜2mg 1日3〜4回を投与する.

    ・セレネースによる錐体外路症状の予防としてアーテン錠を3錠分3で投与する.
    ・ 内服が困難な場合,セレネース注10〜60mg/日の持続皮下注または持続点滴静注する.    

    ・ セレネース注による錐体外路症状の予防としてアキネトン注5mg/日を点滴静注する.   

   (5)呼吸抑制

    1)適切な投与量であれば,重篤な呼吸抑制は出現しない.

    2)鎮静により呼吸数の減少が見られても,覚醒とともに消失するので治療の必要はない.    

    【呼吸抑制が起こりうる場合】

    ・必要以上にモルヒネの血中濃度が上昇した場合

    ・原則以上の過量投与を行った場合

    ・肝・腎機能や全身状態の増悪にもかかわらず減量しなかった場合

    ・神経ブロックなどにより突然痛みが消失した場合

    【呼吸抑制が発生した場合】

    ・モルヒネを減量または中止する.

    ・気道確保に留意する.

    ・上記の方法で改善がみられない場合には,ナロキソンを静注,必要なら酸素投

     与する.

   (6)口内乾燥

    1)約50%の患者に発現する.

    2)水分摂取を促す.

    3)氷水やアメをなめる.

    4)うがいを励行する.

    5)レモングリセリン,リップクリーム,人工唾液などを塗布する.    

   (7)発汗

    1)約30%に発現する.

    2)根本的な治療法はない.

   (8)掻痒感

    1)発現頻度は数パーセントである.

    2)軽症の場合は放置して観察する.

    3)症状が強い場合は,抗ヒスタミン剤を投与する.

   (9)排尿障害

    1)モルヒネによる排尿障害は稀である.

    2)症状が軽い場合は,経過観察でよい.

    3)症状が強い場合には,ウブレチドまたはミニプレスを投与する.

    4)それでも改善されない場合には,導尿する.

  (10)ふらつき感

    1)モルヒネ投与開始時に,高齢者や全身衰弱者に起きることがある.

    2)ほとんどは数日で消失する.

  k)その他の強オピオイド鎮痛薬

   (1)ブプレノルフィン(レペタン)

    1)効力はモルヒネの60〜80倍

    2)効力持続時間は6〜9時間

    3)投与開始量は0.2mg/回で,有効限界は1mgである.

    4)副作用はモルヒネと同等で,ときに心身違和を生ずる.

    5)静注,筋注,皮下注,経口,経直腸投与が可能で使いやすい.


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D.鎮痛補助薬

 1.鎮痛補助薬使用の原則

  次の適応がある時,鎮痛薬と併用する.

  a)痛みに伴う不安やうつ状態の改善

  b)鎮痛薬の副作用の防止

  c)特殊な痛みの治療

  d)鎮痛薬との併用により鎮痛効果を高める.

 2.鎮痛補助薬の使用法

  a)コルチコステロイド

   (1)神経圧迫,脊髄圧迫,頭蓋内圧亢進,軟部組織浸潤,骨転移,リンパ浮腫,腫瘍周囲の浮腫

     ・炎症による痛みには効である.

   (2)末期癌特有の全身倦怠や食欲不振にも有効である.

   (3)プレドニン,デカドロン,リンデロンを投与する.

   (4)投与量が少量の場合,朝1回投与とし,量が多くなれば朝・昼または分3で投与する.   

   (5)不眠を避けるため午後6時以降には投与しない.

   (6)消化性潰瘍予防のため抗潰瘍剤を併用する.

  b)抗うつ薬

   (1)deafferentation pain,慢性疼痛,うつ状態,不眠,尿意切迫,切迫性尿失禁,夜尿症,

    膀胱痙攣の緩和に投与する.

   (2)deafferentation painには,トリプタノールやトフラニールが第一選択である.

   (3)うつ状態は癌患者の約5〜15%に発現する.

   (4)うつ状態の治療には,トリプタノール,トフラニール,アナフラニール,ルジオミール,テトラミド

     を投与する.

   (5)眠気のみられる場合には,リタリンを投与する.

   (6)不眠,尿意切迫,切迫性尿失禁,夜尿症,膀胱痙攣にはトリプタノールがよい.

  c)抗てんかん薬

   (1)テグレトール,アレビアチンは神経の異常発射を抑制する.

   (2)胃腸障害を起こしやすい.

  d)抗精神薬

   (1)セレネース,ノバミンがある.

   (2)制吐作用,抗不安作用,鎮静作用がある.

   (3)セレネースは内服,静注,筋注,皮下注できる.

  e)抗不安薬

   (1)セパゾン,レキソタン,メイラックス,セレナール,セルシン,デパスなどがある.    

   (2)セルシンは筋の攣縮や緊張に有効である.

  f)睡眠薬

   (1)入眠障害にはハルシオン0.125〜0.5mgを投与する.

   (2)夜間覚醒の場合はレンドルミンやユーロジンを投与する.

   (3)内服困難な場合はセニラン坐薬の使用や,夜間から早朝にかけてドルミカムの点滴静注 

     (10〜50mg)をするとよい.

 
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E.緩和ケアの留意点

 1.末期症状への対処

   末期症状としては,主に呼吸器症状が治療の主体となる.パルスオキシメータをつけること

   を奨める.

  a)呼吸困難

   呼吸困難は末期癌患者の6割にみられ,痛みと同等にそのコントロールは重要である.以下に 

   呼吸困難の原因を示す.

    (1)換気障害:気胸,無気肺,胸水,腹水

    (2)気道系障害:気管・気管支の狭窄,喘息,喀痰

    (3)循環器系障害:心不全,心タンポナーデ,貧血

    (4)炎症性:肺炎,気管支炎,発熱

    (5)心因性:不安,恐怖

   原因に応じた治療と,体位の工夫,環境調整,寝衣,寝具の工夫,理学療法,精神的ケアーが

   必要である.以下の薬物治療が奏功することがある.

   【モルヒネ】

    低酸素血症に対する感受性を低下させる.

   【コルチコステロイド】

    炎症を抑え,浮腫を軽減する.

   【抗不安薬】

    心因性の呼吸困難に特に有効である.

   【気管支拡張薬】

    中枢神経系には興奮的に作用する場合がある.

   【分泌抑制薬】

    ハイスコが著効する.鎮静作用がある.

  b)死前喘鳴 (death rattle)

   衰弱が激しく,死が切迫したときに気道内(咽頭・喉頭)分泌物が増加して,「ゴロゴロ」と音が 

   する状態をいう.通常患者の意識は低下しているので苦痛でないことが多いが,家族にとって

   は非常に苦痛となる.家族には苦痛のない状態であることを説明しておく.以下に対処を示す.

    (1)ハイスコを用いる.

    (2)死前喘鳴があるにもかかわらず,意識がある場合は躊躇せずに鎮静する.   

    (3)セミファーラー位など,体位を工夫する.

    (4)口腔や咽頭の分泌物を吸引する.

 2.患者・家族との接し方の要点

  a)精神的ケア

   (1)視線が水平となるようベットサイドに座り込む.

   (2)患者の言葉に傾聴し,感情に焦点をあてた言葉かけをする.

   (3)非現実的な,安易な励ましは避ける.

   (4)共感的理解的態度で接する.

   (5)患者の疑問や悩みを聞き出すように質問の機会を与える.

   (6)患者の気持ちや希望を支える.

   (7)スキンシップによる非言語的コミュニケーションをはかる.

  b)家族へのケア

   患者の死が近づき,言語的コミュニケーションがとりにくくなれば,家族のケアが中心になってくる 

   (1)家族が知りたいと思うことをまず尋ねる.

   (2)どうするのが最も良いかを家族と共に考える.

   (3)現在の病状と,将来予想される病状を伝える.

   (4)急変の可能性があることを伝える.

   (5)最善を尽くすことを伝える.ただし,最善を尽くすということは単に時間的延命をはかったりする

     ことではない.

   (6)できれば,多くの家族に同時に説明する.

   (7)専門用語を使わずに,分かりやすい言葉で話す.

 
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F.その他

 1.硬膜外ブロック・神経ブロック

   WHO 方式癌疼痛治療法の普及により,硬膜外ブロック・硬膜外モルヒネ投与法の適応は絞られ

   てきた.ただし、全身的な副作用が少ないこと,除痛の質が高いことが利点としてあり,前述の

   PCA ポンプを併用することにより患者のQOL の向上を期待できる.神経破壊薬を用いる神経ブロ

   ックは癌患者の痛みが広範囲にわたることが多いので,適用範囲は限られる.

   会陰部,下肢に限局する痛みに適応となる.

 2.疼痛治療で用いられる持続注入器

   持続静注,持続皮下注では様々な機能をもった持続注入器が使用される.

  a)PCA ポンプ(デルテック,ハーバード,バクスター)

   持続注入に加えて,痛みが増したときに一定量のモルヒネを患者自身が注入できるPCA

    (Patient Controlled Analgesia) ポンプ機能をもつ.非経口的モルヒネ投与には最適だが,高価.

   麻酔科外来に3台現有.

  b)シリンジポンプ(テルモ,ニプロ,トップ)

   20,30または50mlの注射器を直接装着して連続注入する方法で早送り機能をもつ. 

   携行用の5または10ml注射器用のものもある.

  c)バクスターインフューザー(バクスター,ニプロ,DIB)

   風船の収縮力を応用した持続注入器.注入中の速度変更はできないが,軽量でディスポーザブ 

   ルのため,患者の日常生活活動を制限しない利点がある.最近は種々の注入速度や容量のも 

   や、不十分ながらPCA 機能をもつものがある.


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G.参考図書・文献

 1) Twycross RG, Lack SA.,武田文和訳:末期癌患者の診療マニュアル――痛みの対策と症状の 

  コントロール――(第2版).医学書院,1991.

 2) 淀川キリスト教病院ホスピス編:ターミナルケアーマニュアル第2版.最新医学社,1992.

   

 3) 武田文和編:ガン患者の痛みに対するモルヒネの適応と実際.真興交易,1995.

4) 厚生省薬務局麻薬課監修,日本公定書協会編:医療用麻薬の利用と管理`96.ミクス,1996.

5) 加藤和子:モルヒネ持続注入法――持続皮下注入法,持続静脈内注入法――.実験治療.

  639:18-20,1995.



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