同種抗体抗Sを保有する患者で、血球試薬に非特異反応を認めた一症例

かみいち厚生病院 杉本 好美 

70歳  女性  ARh+  胃潰瘍

出血に伴う貧血(Hb4.9g/dl)改善のため、MAP2単位の依頼あり。

 

A          不規則抗体および、交差適合試験

 

 

生食

Albmin

AlbCoombs

Bromerin

 

交差

@

0

+

3+

2+

不適合

A

0

0

0

0

適合

不規則抗体スクリーニング

1

0

0

0

0

 

2

0

0

3+

2+

 

3

0

0

3+

2+

 

Dia

0

0

+

0

 

Auto

0

0

0

0

 

検査は試験管法で、スクリーニング血球は、サージスクリーン(Ortho)およびDia血球(Ortho)を用いて、行った。

u       交差適合試験では、2本のうち1本が不適合となり、また不規則抗体スクリーニングは、1以外の血球にクームス及びブロメリン法で凝集が認められたことより、同種抗体の存在が考えられた。

 

B          同定検査(厚生連滑川病院)

Dia Med社同定用血球試薬を用いて、MTSカード(オリンパス)で同定を行ったところ、全ての血球に23+の凝集を認め、血球試薬に非特異的な反応が示唆された。

 

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

AHG

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

パパイン

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

2+

3+

2+

 

C          上記結果を元に、精査を施行(富山医薬大)

※ すべての凝集反応は、MTSカード(オリンパス)を用いた。

I             同定用パネル(Ortho)を用いて、同定検査

 

 

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

 

AHG

3+

1+

2+

0

1+

2+

3+

3+

3+

2+

3+

 

Br_2

3+s

2+

3+

3+

3+

3+

3+

3+

3+

3+

3+

 

S抗原

+

0

+

0

0

0

+

+

+

0

+

s抗原

+

+

+

+

+

+

+

+

0

+

0

 

u       S抗原陽性血球に対し、3+の凝集を認め、その他の血球では、02+の反応を認めたことより、血清中に抗S、及び自己抗体(抗I)の存在が示唆された。

II           自己抗体の証明

1.      患者血球と患者血清を等量混合し、52時間感作させた後遠心し、その上清(IgM型自己抗体の吸収)についてS+)、S(-)血球との反応性を確認した。

 

S+血球

S-血球

吸収前

3+

2+

冷式自己抗体吸収後

2+

0

Peg自己抗体吸収後

2+

2+

2.      患者血球にてPegによるIgG型自己抗体の吸収を行い、S+)、S(-)血球との反応性を確認した。

u       冷式自己抗体吸収により、S-血球の凝集が消えたこと、また、Peg自己抗体吸収では消失しなかったことより、冷式自己抗体が存在すると考えられた。

 

III         抗体のイムノグロブリンクラスの確認

 

S+血球

S−血球

 

AHG

Br2

AHG

Br2

処理前

3+

3+

2+

3+

2-ME処理後

2+

0

0

0

血清を2-ME処理し、反応性を確認した。

u       2-ME処理により、S−血球の凝集が消えたが、S+血球では凝集を認めたことより、不規則抗体(抗Sと考えられる)はIgG型であり、自己抗体はIgM型と考えられた。

 

IV        患者の抗原性確認

DCe、 MNs、 Fy(a+b-)Jka+b+)、Le(a-b+)

u       S抗原陰性より、Sは、免疫同種抗体と考えられる。

 

V          同種抗体であることの確認(擬似反応でないことの確認)

S抗原陽性と陰性血球を用いて、血清中の抗Sを吸収し、吸収後の上清中に抗体の存在を確認した。

            S抗原陽性血球で吸収した血清:(-

            S抗原陰性血球で吸収した血清:(+

u       S抗原陽性血球にて血清中の抗体が吸収されたことより、抗Sが証明された。

u       S抗原陰性血球で吸収されなかったことより、擬似反応(ミミッキング)は否定された。

 

VI        Dia Medの血球に対する非特異反応の証明

Dia Med -T、U、Dia血球を洗浄し、未洗浄血球との反応を比較した。

 

T(Ss)

U(Ss)

Dia(ss)

未洗浄

2+

2+

2+

洗浄

2+

2+

2+

血球を洗浄しても、有意差は認めなかった。

 

 

VII       Dia Medの血球を遠心しその上清を用いて、S―の血球を浮遊させ、反応性を見た。

 

S−血球

未感作

0

3730

+

52日間

12+

 

u       Dia Med以外のS−血球を、Dia Medの浮遊液で感作させることにより、凝集が認められたことより、Dia Med社の血球の保存液に非特異反応を起こす原因があると考えられた。

 

D.        結果

Ø         患者血清中に、間接抗グロブリン法で反応する同種抗体抗S、及び冷式で反応する自己抗体が証明された。

Ø         DiaMed社の血球試薬を用いた検査では非特異反応を示し、血球試薬の保存液が原因と考えられた。

Ø         S抗原は、酵素により抗原が破壊されるので、通常は酵素法では抗体が検出されないが、今回検出した抗Sは、酵素法(ブロメリンおよびパパイン)に強い反応性を示している。