-複合抗体が疑われる場合の検査の進め方-
【不規則抗体スクリーニング・同定に必要な知識と情報】
1. 抗体の生化学的性状
(ア) 反応温度や検出方法により検出できる抗体が違う: 低温で反応すれば冷式抗体、37℃で反応すれば温式抗体、また生食法で反応すれば自然抗体、間接抗グロブリン試験で反応すれば免疫抗体が推測される。
(イ) 赤血球の酵素処理効果: MNSs、Duffy、Xgaなどの抗原は酵素によって破壊され検出されない、または減弱する。
(ウ) 凝集力や凝集塊のくずれ方: 他の抗体と比べ、高力価でありながら凝集力が弱く、反応を見逃されやすい抗Jra(HTLA抗体:high titer low avidity)などがある.
(エ) 補体結合性のある抗体: P(抗P, 抗Tja)、Lewisなどでは溶血反応を起こすことがある。
2. 抗原の分布と特性
(ア) 抗原の頻度と、抗体産生能: 抗原の頻度や、よく検出される抗体を考慮する。
(イ) 赤血球以外にも含まれる血液型抗原: ABOやLewis血液型などでは、赤血球上に限らず血清中に水溶性抗原(型物質)として存在する。
(ウ) 抗原活性の低下を示す血液型: MN、P、LewisおよびDuffy血液型などでは、経時的に抗原性が低下する事を考慮するとともに、使用する赤血球(スクリーニング血球)は新鮮であることが望ましい。
(エ) 量的効果(dosage effect): Rh系、MNSs、Duffy、Kiddなど、対立遺伝子を持つ抗原では、ホモ接合赤血球とは強く、ヘテロ赤血球とは弱く反応するなど、凝集に強弱が見られる。
3. 抗体の種類と頻度
産生しやすい抗体、しにくい抗体を考慮する。
【同定に際して応用される追加検査】
1. 追加パネルを加える。
2. 血液型表面抗原検査: 免疫抗体であれば、自己赤血球上の抗原は陰性である。
3. 抗体の特異性を、Fisherの確率式から求める。
4. 抗体吸収・解離試験: 複合抗体が疑われる場合、すでに同定されている抗体を、その抗原陽性の血球で吸収し、吸収後の血清中に他の抗体があるかどうか確認する。また吸収に用いた血球を解離し、解離液中の抗体が同定した抗体であることを確認する。
5. 高頻度抗原に対する抗体を疑う場合には、患者抗原が陰性であり、血清中の抗体が複数の抗原陰性血球と反応しないことを確認すべきである。
6. 血液型物質による中和試験: 抗Lewis, P, Iなどは、型物質を用いて抗体を中和することができる。中和されれば、その型物質に対する抗体の存在の証明となる。
【例題】免疫複合抗体を保有する症例
患者情報:女性、48歳、輸血歴あり(10年前)妊娠歴あり、現投薬なし
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D |
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k |
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s |
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1 |
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Cont |
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Sa:生食法 Br:ブロメリン1段法 AHG:間接抗グロブリン法
1. ブロメリン1段法(酵素法)、間接抗グロブリン法の反応形態の違いから、不規則抗体が複数存在することがわかる。
2. 先ず、AHGで反応している抗体を考える。
(ア) AHGで反応していない3.4.5.9.10.11のcellで消去法を行う。消去法より否定できない抗体は、抗E, 抗Diaとなる。
(イ) AHGで反応している血球の中にも、1+から3+まで反応の強さにはばらつきがあり、抗体が2種類以上存在することが示唆される。
3. 次に酵素法で反応している抗体を考える。
(ア) 酵素法で反応していない 2.3.4.5.8.9.10.11のcellで.消去法を行った結果、抗Eが残った。酵素法で強く反応するRh系の抗体であり、反応している抗体は抗Eがもっとも考えられる。
4. 抗体は間接抗グロブリン試験で反応する、IgG型の免疫抗体と考えられる。免疫抗体では、抗体に対する患者抗原陰性であることより、不規則抗体が抗E、抗Diaであれば、患者はE抗原(−)、Dia抗原(−)となる。
5. E抗原(+)、Dia抗原(−)血球を用いて、吸収試験(抗Eの吸収)を行う。
(ア) AHG法で、1および6の血球の凝集が消え、抗Diaの反応パターンになるか確認する。
(イ) 吸収に用いた血球をDT解離、または酸解離し解離液中に抗Eが存在することを確認する。
6. 適合血を考える。
(ア) 抗体が抗Eと抗Diaでれば、輸血血液は、E抗原(−)、Dia抗原(−)を選択する。患者がc抗原(−)であれば、今後抗体を産性する可能性が高く、適合血を選択する際、c抗原(−)も考慮することが望ましい。
(イ) E(−)、c(−)、およびDia(−)の適合率は、0.43×0.9=0.387 より、38.7%である。
「輸血検査の実際-改訂第3版-」 P58〜P62 およびP153 の一部を変更して
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